静かな図書館で触れられた指先…物音ひとつ許されない中で芽生えた関係

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静かな図書館で触れられた指先…物音ひとつ許されない中で芽生えた関係 (ページ 1)

いつものように、本を借りに図書館へ向かった。週に何度か通うこの場所は、恵にとって現実から少しだけ逃れられる静寂の箱庭だった。誰もが声を潜めて歩き、ページをめくる音さえも、呼吸のように優しく響いている。

その司書・孝を、初めて意識したのは、半年ほど前のことだ。
カウンターの奥で、黙々と本を整えていた彼がふと目を上げ、恵の貸出カードを受け取ったとき――

「いつも、ありがとうございます」

低く穏やかな声と、整った横顔。それから、少し遅れて返された本のタイトルを眺めた孝が、ほんのり微笑んだ。

「静かで深い話がお好きなんですね」

その言葉が、妙に胸の奥を撫でるように残った。
以来、孝と交わす短い会話が、恵の読書と同じくらいの楽しみになっていた。

*****

その日も、雨が降っていた。濡れた傘をたたみ、奥の閲覧席へと進む。窓際の席に腰を下ろし、文庫本を開いた。しばらくして、視線を感じて顔を上げると、孝が静かにこちらへ向かってきていた。

「よろしければ、どうぞ」

そう言って差し出されたのは、ブランケットだった。

「冷房が効きすぎているかもしれませんので」

「ありがとうございます」

膝に掛けると、ほんのりと温かい。それが孝の手の温もりだったのかと思うと、胸がふわりと熱を帯びた。

孝は、そのまま隣の席に腰を下ろした。図書館の奥の席は人通りも少なく、雨音だけが遠くから聞こえていた。

「いつも、静かに読まれていますね。ページをめくる音まで美しい」

その言葉に、恵の頬が熱くなる。彼の声はささやくように静かで、けれど鼓膜に優しく触れてくる。

「司書として、言ってはいけないことかもしれませんが……いつも、見ていました」

言葉が、心の奥に届いた瞬間だった。孝の指が、そっと恵の手の上に重なる。図書館の中とは思えないほど、心臓の音が大きく響いた。

「…だめ、ですよ。ここは…」

小さく抗うように言ったその声すら、孝の体温を引き寄せてしまうようだった。

「音は立てません。大丈夫です」

孝の声が、まるで本のページをなぞるように静かで、背中を撫でるように深かった。

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