姉が帰ってくる、その前に―ラスト5分でイけるのか、イけないのか― (ページ 2)

「…あいつ、最近冷たいんだよね」

典弘くんが、ぽつりと言った。
私は彼の方を向いた。少しだけ、寂しそうな横顔。

――正直、私は典弘くんみたいな人が好きだった。

 
「…お姉ちゃんが…ですか?」
「そう。もう付き合って二年だし、倦怠期ってやつなのかなぁ。俺も色々頑張ってるんだけどね」

私は何と答えればいいのだろう。
困っていると、典弘くんは微笑を浮かべた。
けれどその微笑みですら、どこか無理をしているような影があった。

「ごめん、姉の彼氏にそんなこと言われても困るだけだよね」
「いえ、全然大丈夫ですっ。辛いですよね。お姉ちゃんも典弘くんのこと好きだと思うんですけど、色々忙しくて余裕ないみたいで。すみません」
「ひよりちゃんが謝ることないよ! ごめんね、気を遣わせちゃって。ひよりちゃんは優しいね」

そう言う彼の瞳は、穏やかな色をしていた。

 
――そんな目で見つめないでほしい。
 

私はテレビに視線を戻し、平静を装った。
再放送のドラマは盛り上がる場面に差しかかり、壮大な音楽がリビングに響き渡っている。

 
「…ひよりちゃん」
「はいっ」

私は彼の方を向いた。
その拍子に、私の手が温かいものに触れた。

典弘くんの手だった。

「あっ、ごめんなさい!」

私は急いで手を引っ込めた。

「…ひよりちゃんの手のひら、冷たいね」

ぼそっと呟く、典弘くん。

 
そして――私の華奢な手首が何かに掴まれた。

「…ひよりちゃん…」

典弘くんのゴツゴツした手が、私の手首を捉えていた。

「典弘…くん…」

私が呟くと、彼はパッと手を離した。

「――ごめん。俺、どうかしてるよね」

そう言って、自分の頬を両手で軽く叩いた。

「ひよりちゃんの優しさに甘えそうになっちゃったよ。そんなの、絶対ダメだよな」

私は、彼をまっすぐ見つめた。

手足の冷たさとは裏腹に、頬がかぁっと熱くなっていくのを感じる。

「――ダメじゃない、です」

私は、膝の上で固く握られた典弘くんの手の甲に、手のひらを重ねた。

彼は目を丸くして私を凝視した。

絡み合う視線。

ドラマのエンディング曲が沈黙の間を縫う。

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