脈なしだと思っていた男友達から離れようとしたら、甘く狂いはじめて逃げられない (ページ 6)

 
「はる……」

名前を呼ばれた瞬間、胸の奥が大きく跳ねた。そのまま引き寄せられて、距離が一気に縮まる。

「あ……っ」

強く抱き寄せられて、息が詰まる。重なったまま伝わってくる鼓動がやけに大きくて、思考がふっと遠のいていく。

「え……?」

ぼんやりと顔を上げると――彼は少しだけ困ったように、でもどこか楽しそうに笑っていた。

「でちゃった」

ぺろっと舌を出して、てへっと笑う仕草は、まるで悪いことを見つかった子どもみたいで。その無邪気さに、一瞬だけ現実感が揺らぐ。

「いや、でちゃったって……」

うまく言葉が出てこないまま返すと、くすっと小さく笑われた。

「大丈夫だよ」

少しだけ間があってから、彼は声を落とす。さっきまでの軽さとは違う、どこか意図的なやわらかさで。

「……わざとだから」

「え……?」

聞き返そうとした瞬間、腕を引かれる。気づけば、もう逃げ場なんてどこにもなくて。耳元に、低い声が静かに落ちてくる。

「ちゃんと責任取るから」

ぞく、と背筋が震えた。その声音は穏やかなのに、どこか絡みつくようで――さっきまでの空気とは明らかに違う。

「はるはもう――」

わざと焦らすみたいに、言葉の代わりに近づく呼吸。

「僕のものだよ?」

どくん、と心臓が大きく跳ねる。

「今日から毎日しようね?」

優しく言っているはずなのに、逃げ道を塞がれていくような感覚が残る。

「ずっと、ずっと一緒だよ」

耳元で囁かれる声はどこか楽しそうで、でもその奥にあるものが読めなくて。

そのまま胸元に顔をうずめられて、軽く触れられる感触に、思わず息が止まった。

「あんっ……!」

びくっと体が跳ねた瞬間、くすっと笑う。

「ほら、そんな顔してる。エッチな子だね」

指先で頬に触れられて、ぐっと顔を上げさせられる。視線を逃がそうとしても、簡単に捕まる。

「ほんと可愛い」

優しい声。

なのに、その目だけはどこか狂気に満ちていて。

「閉じ込めておきたいくらい」

(……なんか、奏の様子、おかしくない?)

さっきまでの軽さとは違う。

冗談にしては、妙に本気じみている。

胸の奥が、ざわざわと騒ぎ出す。

逃げた方がいい。そう思うのに――また強く抱きしめられて、動けなくなる。

体温も、鼓動も、全部近すぎて。

考える隙を与えてくれない。

私たちの関係は、確かに変わった。

でもそれは、“恋人”なんて軽い言葉じゃ収まらない。

もっと深くて、重くて、逃げようとしたら壊れてしまいそうな――そんな何か。

(……逃げなきゃいけないのに)

ぎゅっと抱きしめられたまま、目を閉じる。――それでも。ほんの少しだけ、嬉しいと思ってしまった。

-FIN-

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