電車で隣に座った男に狂わされていく私。ストーカーになり、男を追う私は電車の中で… (ページ 2)

最終の準急電車のドアが開く。

一番端の席を確保しようとしたけど、すでに誰かが座っていたので、その隣に陣取る。

端の席だと、隣の人に寄りかかることなく、眠れるからだ。

座席に腰を下ろした瞬間に、甘ったるい匂いが立ちのぼってくる。

彼に弄られたときに、したたらせてしまった愛液の匂い。

朝、家を出るときにウエストの両脇に振ったトワレの香りは、とっくに消えてしまっている。

あわてて、両隣の乗客の様子をうかがう。

左隣のOLらしき女性は、すでに目を閉じている。

右隣の男を見たら、至近距離で目が合ってしまい、どきっとして、羞恥に体が熱くなる。

この男とは、どこかで会ったことがある。

朝の電車だろうか。

でも、毎日見る顔ではない。

背が高く、痩せた体に、左耳のピアスと紫色のイヤホンの組み合わせに見覚えがある。

バンドマンかと思ったけど、地味な紺のコートにネクタイも紺で、染めていない髪は短い。

私を見ていたけど、匂いに気づかれてしまったのだろうか。

電車のドアが閉まり、ゆるゆると動き始める。

ここのところ、夜遅くまでカーテンを選んでいたので、睡眠不足気味だった。

私は眠りに落ちる。

*****

誰かが私の髪を撫でている。

彼?

いや違う。

ひとりで準急の電車に乗って、家に帰るところだ。

薄目を開けると、白のシャツに紺地のタイが寝ぼけた眼にぼんやりと像を結ぶ。

男の手は、私の肩から背中に降りて、また頭に戻って、髪を撫でている。

時々鼻先が頭頂に触れる。

痴漢、と言っていいのか、わからない。

でも、私が隣の男に寄りかかって眠ってしまわなければ、そんなことはされていないはずだ。

だから、とりあえず体を起こして、謝ればいいだけの話だ。

髪を撫でられていたことは、気がつかなかった振り。

そう思って起き上がろうとしたときに、電車が減速し、ぐらっと大きく揺れた。

その拍子に、私の上半身は男の膝の上に倒される。

硬く熱を持った膨らみが私の耳に触れ、男がフッと鼻で嗤(わら)ったような気がした。

脈がバクバクと喉で鳴り、手足に力が入らない。
 
さっきまで私の髪を優しく撫でていた手が、私の頭を強い力で押さえつけている。

やめて…と言いたくても、声が出ない。

視界が仄暗くなる。

頭からコートの裾を被せられたようだ。

男の熱を帯びた器官が私の頬に押しつけられ、脈を打っている。

電車は停止して、駅名がアナウンスされる。

目的地まで、あと20分。

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