彼の死から二年。ずっとそばで支えてくれていた眼鏡男子が、突然私の手首の自由を奪ってきた。

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彼の死から二年。ずっとそばで支えてくれていた眼鏡男子が、突然私の手首の自由を奪ってきた。 (ページ 1)

「亡くなってから二年しか経ってないのに、三回忌って言うんだな」

三回忌の帰り道。私の部屋に寄ってくれた青井が真っ黒いネクタイをゆるめる。ふわりとお部屋にお焼香の匂いがたちこめ、きりきりと胸が痛んだ。

「青井はいいな。いとこだから三回忌に呼ばれて。私、忙しくってまだお墓参りにも行けてないんだ……」

私の言葉を受け、青井が優等生のアニメキャラみたいにくいっと黒い眼鏡を押し上げた。

「桃香? おばさん、心配してたぞ」

「判ってる。電話がきた。三周忌には呼ばない、そろそろきもちを整理して、新しい幸せをみつけて欲しいって……でも、お墓参りくらいはいいでしょ?」

青井は眼鏡ごしに、心配そうに私を見つめてきた。

私と同じトシなのに、青井はいつも、まるでお父さんやおじいちゃんみたいに私を心配してくれる。

「まあとにかく食え。おまえこうゆうの好きだろ」

テーブルの上にはお菓子の箱。三回忌のお返しに青井が持ち帰ってきたものだ。

「ほら、好きなの選べ。いや、いっそ全部食え」

箱を開けた青井が、焼き菓子を一種類ずつ私の前に並べていく。

「そんなツラして。今日はまだなにも食ってないんじゃないか?」

その通りだったけど認めると青井はますます心配するので、私は黙って立ち上がった。ふらりと部屋の隅のチェストに向かい、その上に置いた写真たてを眺める。

写真には、並んで笑う私と彼……。

「青井、きもちの整理って、どうやってするのかな」

「とりあえず、新しい男でも作れば?」

青井がいつもの淡々とした口調で言う。

彼と青井は近所に住むいとこ同士だった。歳が同じでお互い一人っ子だったので、ふたごの兄弟のように仲良く育ったというけど、タイプはまったく違っていた。

明るくやんちゃで人気者だった彼に対して、青井は地味で沈着冷静、とっつきにくい優等生クンだった。

彼とつきあいだして結構すぐに青井を紹介されたけど、その頃の私は、冷たい雰囲気の青井が苦手だった。

「新しい男?」

――まだこんなに、好きなのに?

涙がにじみ、鼻の奥がつんとする。

――そんな気になれないことくらい、青井だって判ってるくせに。

「う」

「バカ。泣くな。おまえ泣くとめんどい」

彼が事故に巻き込まれたことを知らせてくれたのは青井だった。一緒に病院にかけつけ、一緒に彼を看取り、一緒に葬儀に出て、一緒に骨を拾った。

それからずっと、青井は私を心配し、気にかけてくれている。最初の数か月は、泣き暮らしている私に年中電話をくれた。甘いものやご飯も差し入れてくれた。あとを追って死にたいと騒いで、ひっぱたかれたこともある。青井との思い出は、数えきれない。

『少し苦手な彼のいとこ』だったはずが、今や『私を支えてくれる大事な友人』になっている。皮肉なもので、彼の死が青井と私の距離を縮めたのだ。

「うぅっ」

とうとう私が泣き出してしまうと、青井はいつものようにハグしてくれた。でも私から青井に抱きつくことはしない。ハグは恋愛の行為とは違うと判ってるけど、どうしても彼以外の男に抱きつくなんてできなかった。

「桃香。荒療治するぞ」

青井は突然そう言って、強く私を抱きしめてきた。

「青井?」

体に巻き付いていた青井の腕と手のひらが、私の背中を撫でていく。青井がそんな動きをしてきたのは初めてだった。

「あいつにできないこと、俺がしてやる」

「えっ?」

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