漫画家と編集者――越えてはならない一線がある、そう分かっていたのに… (ページ 3)

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否定すればするほど想いが募り、気持ちを隠し通すにも限界が近付いてきたある日、ネームで行き詰まったという連絡を受けて、私は急いで先生の元へと向かった。

インターホンを鳴らすと、なぜか仕事場ではなくリビングのある自宅の方へと通される。

「悪いね果歩ちゃん、早速なんだけど見てもらえる?」

「はっ…はい!確認させて頂きます」

初めて入るプライベートな空間にガチガチに緊張しながら、私は差し出されたネームに目を通した。

その間、先生は向かいのソファに座ってタバコを吸う。

黙って紙をめくる私の手元に先生の視線を感じる。

心臓が……煩いくらいに早鐘を打った。

「主人公のアラフォー男と若い女の子の濡れ場なんだけどさ。男の願望描くのは得意なんだけど、女性から見てどんなシチュエーションがグッとくるのか知りたくてね」

先生はそう言いながらタバコを灰皿に擦り付けると、今度は私のすぐ隣に来て座った。

シャワーを浴びた後なのか、目にかかる濡れた前髪を無造作にかき上げる先生。

それは大人の色気を放つには充分な仕草だった。

「た、確かに…先月号のアンケートでは女性読者も多かったですからね」

「果歩ちゃんなら…どんなふうにされたい?」

不意に髪に触れられてドキッとする。

私は慌てて思っていることをそのまま口にした。

「そっ…それこそシーンがこんな感じのリビングですから、ソファに押し倒されて…余裕のない感じで年上の男性に迫られたら…女性読者はドキドキするんじゃないでしょうか」

「なるほどね、じゃあ……果歩ちゃんで試してみてもいい?」

「え…?」

突然の申し出に固まってしまう。

と、同時にこんなチャンスは二度とないかもしれないという声が脳裏をちらつく。

「わ…たしでよければ……」

絞り出す小さな声に、先生は一瞬目を丸くして、けれどすぐに困ったように眉を下げて優しく微笑んだ。

「冗談だよ、うそうそ。ごめんね?いくら俺だって編集さんにそんなことお願い出来ないよ」

「いいです、してください!」

好きな人に抱いてもらいたい一心で、私は仕事という事を忘れてなりふり構わずお願いした。

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