新入社員にトロトロに溶かされ、部下の顔に自らまたがった上司失格の私 (ページ 2)

「いろいろと助けてもらってありがとう」

「もちろん次も頑張ります!でも…」

「でも、何?」

「いい仕事ができたら、食事に連れて行ってもらえますか?」

「食事?私と?」

「はい、そうです」

「いいわよ」

 恵里佳は突然のリクエストに、深く考えず承諾した。この世代は誉めて伸ばすだけでなく、ご褒美までいるのかと思ったが、今までそんなことを言われたことがない。

 冬弥も会話の流れでそう言っただけかもしれないし、実際、恵里佳もすぐに忘れていた。

 でも、冬弥は本当に頑張った。情報収集からデータ作成までを、前回を超える速さと正確さで仕上げたのだ。

「凄いじゃない!これを三日間で?」

「はい、見直しも確認もしています」

「そうね、確か前回注意したものね」

「はい」

 そんな冬弥は、恵里佳が休憩室でぼうっと目を閉じて何かを考える姿を何度か見ていた。電話対応、メールの返信、打ち合わせ、相手は堅い年上男性ばかりで、イラっとすることもあるのだろう。

 相変わらず、冬弥に恵里佳の指導がどうだと聞いていくる連中もいたが、冬弥は恵里佳が本当はイメージとは真逆のタイプじゃないかと思い始めていた。

 そして知らず知らずのあいだに恵里佳を見ていることが増え、それは尊敬だけではない感情も含まれていることに自分でも気がついていた。

*****

 冬弥の強力なサポートのおかげもあり、恵里佳のプレゼンはかなりの評価を得た。

「係長、約束覚えていますか?」

「食事よね?もちろん」

「僕が行きたいところの候補を出してもいいですか?」

「それは助かるわ。でも、土曜でもいい?」

「はい」

 恵里佳は、仕事帰りに食事に行く気力がなかった。自分の都合で土曜日を希望したのだが、冬弥は快諾した。

 恵里佳のプライベートを見ることになった冬弥にとって、候補の店探しはなかなか難しかった。悩んだ末、三つの候補をあげ恵里佳に伝えると、恵里佳はその場でカジュアルな洋食レストランを選んだ。

「今週でいい?」

「えっ?今週ですか?」

 日程を決めるのも早い。でも、冬弥は恵里佳のこのテンポが好きだ。あっという間に恵里佳のペースに乗せられ、食事の約束が決まった。

 当日、午後六時に冬弥の最寄り駅で待ち合わせ。冬弥は三十分前から、駅前のカフェで落ち着かない様子で待っていた。遅刻は厳禁だ。

 すると、しばらくして恵里佳らしき女性が階段から下りてきた。冬弥はその姿に少し驚いてしまった。

 恵里佳は淡いブルーのカシュクールワンピースで、髪をふんわりと巻いていて、何というか別人だったのだ。思わず、冬弥はカフェを出て足早に駅前へ向かった。

「お疲れ様です」

「あぁ、山崎君早くない?」

「えぇ、まぁ、係長も早くないですか?」

「電車がね」

 冬弥はくすっと笑う恵里佳を思わず見つめていた。可愛い人だな…、と思った。

 そして、恵里佳も自分を見つめる新入社員が、私服だとこんなにも今どきの男の子に変わるのかと、新鮮だった。

 冬弥は高身長で細身。いわゆる韓流ファッションがとてもよく似合う。こんな若い男性と二人で歩いていたら、周りから好奇の目で見られるに違いない。

 そう思い始めると、恵里佳は少し緊張感を覚えた。

「行こうか」

「はい!」

 二人で並んで店まで歩く。話題は仕事の話しかない。でも、冬弥は恵里佳の仕事以外の部分に興味がある。

「係長は普段、ワンピースを着るんですか?いつもはバシッとスーツだから印象が変わりますね」

「仕事は仕事だし、なんていうかスーツは鎧を着ている感じかなぁ。その反動かな、スカートが好きなの」

「似合いますよ、とても!みんなに見せたいぐらいです」

「ははは、ありがとう」

 恵里佳はこの冬弥の自然に相手を誉める感じが好きだった。白々しくなく、まさにナチュラル。きっと、笑顔と明るい性格の相乗効果なのだと思っている。

 結局、仕事の延長のような二人ではあったが、レストランに到着しリゾート感ある個室に案内され、美味しい食事とお酒を楽しむと少しずつ様子が変わっていった。

「係長、酔っぱらってますか?顔が赤くなってますよ」

「大丈夫、私、すぐに顔に出るの」

 恵里佳はそう言ったが、冬弥はお喋りの上司から聞いていた。恵里佳は酒に弱く、接待でもほとんど口にすることはないらしい。嘘だと思っていたが、どうやら本当らしい。

しかも、眠いのか何なのか、恵里佳が時々眼鏡を外して目をこする仕草が、無防備すぎて隙だらけだ。

「眼鏡を外す係長を初めて見ました」

「そんなことないでしょ、しょっちゅう目薬さしてるから…」

「みんなの前ではしないですよね」

「そっか、君の前だけかもね」

 こんな台詞を恵里佳が言うなんて、冬弥の酔いはどんどん醒めていた。スカートから見える崩した脚が、妙に色っぽい。胸元が大きく開いているわけではないけれど、首筋から鎖骨のラインが艶めかしい。

「こんな色っぽい係長も、僕しか知らないんですね」

「何を言ってるの!私には女の魅力なんてないんだから」

「ありますよ、めちゃくちゃあります!」

 二人の視線が交わった。先に視線を外したのは恵里佳だった。目の前にいるのは部下で、しかも新入社員。それなのに、別世界にいるような、そんな気分に陥ってしまう。

 冬弥はただ、恵里佳ともっと近づきたいと思った。目でキスをしたような、そんな感覚を覚えたのだ。だから、すんなり恵里佳に言えたのだろう。

「僕の部屋で少し休んで帰りますか?」

「…そうね」

 恵里佳が答える。二人の心が繋がった瞬間だった。

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