あじわったことのない快感…優しく彼が教えてくれた開放の世界 (ページ 4)

 そのあとしばらく、杏子はぼうっとしたまま、身動きもできなかった。

 頬に熱い蒸しタオルを押し当てられて、ようやく我に返る。

「顔、拭いて。体もね」

「え……。あの、わたし……」

「レッスンはここまで、ってとこかな。言っただろ? 今日は、最後まではしないって」

「でも……」

「きみだって、もうわかっただろ? 自分は不感症なんかじゃない、自分の体は敏感だって」

「それは……、そうですけど……」

「自信をもって。貴女には充分、愛される価値があるんだから」

 けれど、快感を味わわせてもらったのは自分だけで、彼は何もしていない。本当にそれでいいのだろうか。

「もし、これ以上のことを知りたいっていうなら、それはまた、今度にね」

「……今度?」

 彼は優しく微笑み、うなずいた。

「今日のはね、ほんの入り口。もっともっと、貴女の知らないことがいっぱいあるんだよ」

「わたしの、知らないこと……」

 ――知りたい。

 杏子は願った。

 知りたい。この人の教えてくれること、全部。

 乱れた衣服を直し、髪を整え、杏子は立ち上がった。ゆっくりと店の出口へ向かう。

「また、来てもいいですか?」

 ――その時は、教えて。貴方の知っていることを、全部。

 愛されるだけでなく、貴方のように誰かを愛することもできるようになりたいから。

 彼は黙って、うなずいてくれた。

-FIN-

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