痴漢から助けてくれたおじさんにキュンとしてイタズラしてたら… (ページ 2)

「あ!」

「あれ? 君は……」

乗りこんですぐに、目の前に片倉さんが立っていた。

「夏美です。この前はありがとうございました。助けて貰ったのに、ちゃんとしたお礼もできなくてごめんなさい」

「あ~、夏美ちゃんね。いいんだよ、そんなお礼なんて」

たいしたことなんてしてないし、と笑う片倉さん。

今日の片倉さんは、前に着ていたスーツではなく、ポロシャツにチノパンというラフな格好をしていた。

「今日はどこか行かれるんですか?」

「ちょっと、買い物に行こうかな~、と思ってさ……おっと!」

片倉さんが後ろからドンっと押された。後ろの人が「すみません」と謝って、片倉さんも笑顔で対応している。

「今日、日曜なのに凄く混んでるね」

「なにかイベントでもあるんでしょうか」

片倉さんとそんなことを話していたら、次の駅でたくさんの人が急に乗りこんできた。

私達は乗りこんでくる人達に押されて、車両の隅に押しやられてしまった。

「大丈夫?」

私を挟むように、片倉さんが両手を突っ張って壁につけた。

どうやら片倉さんは、私が乗客に潰されてしまわないように、守ってくれているようだ。

さりげない優しさに、なんだかドキドキしてしまう。

……なんか、片倉さん、かっこいいかも。

そんなことを思いながら、私は「大丈夫です」と笑顔で答えた。

「うっ……わっ!」

「きゃっ!」

電車がカーブに差し掛かって、車両が少し斜めになった。その時、片倉さんが後ろからさらに押されて――。

片倉さんの左の太腿が、私の足の間に入ってしまった。

「ごっ、ごめん! すぐどくから」

片倉さんは焦ったように言って、太腿を引こうとした。

けれども、混みすぎてどうにも動かせないようだった。

焦って額に汗をかいた片倉さんが、困ったように「ごめん」と言った。

「いえ、大丈夫です! 混んでるから仕方ないですよね」

「そ、そうだよね。混んでるからね。本当ごめんね」

そう言って私も片倉さんも笑ったけど、私はドキドキが強くなって仕方がなかった。。

片倉さんの体がすごく近い。ちょっと体を前に出せば、私の胸が片倉さんに触れそうなぐらい近い。

顔の前にすぐ片倉さんの胸があるから、体温とか、シトラスの香りがするのとか、ポロシャツのボタンが全部外されていて、そこから少し肌が見えるのとか、全部伝わってくる。

私はこっそり、片倉さんを上目遣いに見た。片倉さんは視線を窓の外に飛ばしながら、「今日も熱くなりそうだね」って言っている。

その顔は、ちょっと赤かった。耳を澄ますと、目の前からトクントクンと心臓の音が聞こえてくる。

もしかして、片倉さんも私のことでドキドキしてるの?

私はなんだかとても嬉しくなって、そして片倉さんのことをすっごく可愛いと思ってしまった。

「ど、どうしたの?」

私は片倉さんの体に抱きつくように、もたれかかった。。

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