「おまけに家に連れ込むだなんて、ねえ?」誤解が招いた送り狼 (ページ 2)

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫ですって、明日は休みですから」

時間の事を言っているのだろう、珍しく何度も同じ話題を口にする卯月さんに、私はもう一度安心させるように言葉を紡ぐ。

卯月さんの様子は少し歯切れが悪く、怪訝に思った私が彼の方を見るとおずおずと口を開いた。

「だから、予定、とか」

「それ、あえて聞きます?」

卯月さんが発した言葉に、私は白けた目を向ける。

そんな私に慌てた卯月さんを横目にみながら、私はわざとらしく息を吐いた。

「卯月さんがデートに誘ってくれれば、休日の予定も埋まるんですけどね」

たわいも無い事のように口にしているから、本音であることはきっと卯月さんに気づかれてないだろう。

それでも分かりやすく照れる卯月さんは可愛くて、年上の男性であるということを忘れそうになる。

年上の、しかも上司にこんな口振り、本当なら許されることでは無いのだろう。

大袈裟な卯月さんの反応が楽しくてつい口にしてしまうけれど、そろそろ慎まなくては。

「なんてね、冗談です」

とってつけたようにそう言って、それから私は歩調を早めた。

……だから、気づかなかった。

卯月さんが、私が適当に繕ったその一言に、表情を曇らせていたことに。

「それじゃ、おやすみなさい」

アパートの入り口まで辿り着くと、卯月さんはそう言って踵を返した。

呆気ないその後ろ姿に、先程反省したばかりの口が動き出す。

「家、上がっていきませんか」

予想外の言葉だったのだろう、驚いたように揺れた卯月さんの後ろ姿が振り返る。

数秒ぶりに見た卯月さんの顔は、何故だか少しだけ怒りをにじませていた。

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