セクハラ患者から助けてくれた外科医にお礼をしにいったら…当直室で結ばれる恋 (ページ 12)
「恵ちゃん!」
受付前のロビーを歩いていた時、後ろから掛けられた声に振り返った。
見ると、スーツ姿の一人の男性が駆け寄ってきた。
一瞬「誰だろう」と思って、でもすぐに思い出した。
「あなた、確か一年前に脚を骨折して入院されていた」
「そうそう、あの時はお世話になりました」
見慣れた患者衣でないから分からなかったけれど、間違いなく彼はあのセクハラ常習犯だった人。
聞けば、仕事で近くに来たついでに立ち寄ったのだと言う。
「恵ちゃん、もうすぐ仕事終わる?」
「ええまあ…どうかされました?」
「実は、暇ならこの後どうかなって。俺も今日は会社に戻らずに直帰だからさ」
突然何を言い出すのだろうと思いながら、話を聞いていた。
その時、
「こーら。人の奥さんにちょっかい出さないの」
突然聞こえてきた声に胸が高鳴った。
振り返ると、白衣をひるがえすようにしてこちらに歩いてくる姿。
やっぱり恰好いいなあと見惚れてしまった。
「えっと、恵ちゃん…奥さんって」
横から聞こえてきた声にもう一度向き直る。
男性の顔は心なしか引きつっていた。
私が左手薬指にはめていた指輪。
彼がそれに気付いたのは、その直後のことだった。
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