他人の不幸は蜜の味。セクシー悪女になったつもりで不倫デートを楽しむ私

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他人の不幸は蜜の味。セクシー悪女になったつもりで不倫デートを楽しむ私 (ページ 1)

「夫が浮気しているみたいなの」

ひどく哀しそうな顔をして、彼女は言った。

「なんだか様子が変なの。帰りが遅いのはいつものことだけど、服の趣味とか変わってきた感じだし、私がちょっと彼のスマホに触っただけですごい怒鳴るし」

「そうなの?あなたの考えすぎじゃない?」

「ううん、そんなことない。あれは絶対、浮気してる」

私が何を言っても、彼女は聞き入れなかった。

夫は浮気している、の一点張りだ。

女友達の「相談したいことがある」は、大概こんなものだ。

他人の意見が聞きたいなんて、単なる口実。

自分の考えはもう決まっていて、それに賛同してくれる誰かが欲しいだけなのだ。

「でも、すっごくラブラブだったじゃない、あなたたち」

「そりゃ……前はね。今は、違うもん」

彼女は小さくすすり泣いた。

「どうしてこんなことになっちゃったんだろう。結婚なんてしなければよかった。あなたがうらやましい」

それはどうも――とは、さすがに私も言わない。

独身の私がうらやましい、という彼女の言葉の向こう側には、「結婚したからこそ、こういう人生の苦難をも耐え忍ぶ美しい私がいる」という、彼女の優越感が透けて見えている。

独り身で、ろくに男と付き合ったこともないあんたには、理解できないでしょ、と。

そうでなければ、既婚者特有の悩みを、独身の私に相談したりするはずがない。

彼女が夫の浮気に傷ついているのは本当だろう。

けれど、それを同じく結婚している友人知人に打ち明けて、あらまあ可哀そうにと同情されるのは、プライドが許さない。

ならば自分よりも惨めな女に話して、少しでも自分を慰めよう、ということなのだろう。

嫌な女。

でも、人間なんて、みんなこんなもの。

自己防衛本能みたいなものだろう。

そして私も、彼女の疑念が真実であることを知っている。

だって、彼女の夫の浮気相手は、この私だから。

・・・・・

「会いたかったよ、亜希子」

ホテルでの短い逢瀬。

彼は背中から私を強く抱きしめた。

私の髪をかきあげ、うなじにキスをする。

まるでドラマか漫画のワンシーンのようだ。

きっと彼も、ひと昔前に大ブレイクした不倫純愛小説の主人公になったような気分なのだろう。

既婚者で、普段は地味で冴えない男だけど、独身で仕事もできる美女を愛情だけで虜にできる、すごい俺――と。

だから私も、彼の妄想にお付き合いして、身も心も彼に捧げた美しい女を演じてあげる。

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