冷たい麦茶で始まる二人、エアコンでも冷め切らない熱く甘い夜

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冷たい麦茶で始まる二人、エアコンでも冷め切らない熱く甘い夜 (ページ 1)

 長い時間をかけてお風呂に入る。髪にはいつもより控えめにトリートメントを付けて、ドライヤーからの熱風にちょっとだけうんざりしながらもしっかり髪を乾かす。冷蔵庫の扉がトン、と軽い音を立てて閉まる。続いてコポコポという水の音と、コップの中で氷が揺れるカランという涼しい響き。きっと麦茶を注いでいるんだ。今日はとても暑いから。

「ほら、風呂上がりに一杯、どう?」
「ふふっありがとう。それじゃあいただきます」

 ナイトウェアに着替えた私に、直哉は手に持った二つのコップのうち、量の多い方を差し出してくれる。お風呂上がりの一気飲みが癖になっていることを、直哉はもうずっと前から知っている。私の家にお泊まりしたとき、直哉は必ずパックタイプの麦茶を新しく作り直してくれる。もう何回もお泊まりをしているのに、その都度「冷蔵庫、開けてもいい?」と尋ねてくれる律義さも、中のお菓子を食べるためではなく麦茶を作るためにそんな許可を取ってくれる優しさも、初めてのお泊まりの時からずっと変わらない。

「ごちそうさま」
「おっ、早いね。今日も一気飲み」
「のんびり飲んでなんかいられないよ、散々待たせてるのに。ごめんね、私のお風呂長かったでしょう」
「玲美の長風呂はいつものことじゃん。そんなこと謝らなくていいからさ、ほら、行こう」

 空になったコップを取り上げつつ、直哉は自分の麦茶をコクコクと飲み干した。喉仏が動く様に、折角の麦茶である程度冷えていたはずの体がカッと熱くなってしまう。氷の入った冷たい飲み物を持っていた冷たい手で、直哉は私の手を子供のようにくいと引いた。子供のような足取りで、大人にしか楽しめない時間を始める。このアンバランスな夜の幕開けに、いつも私は気恥ずかしくなってしまう。

「玲美、今日も仕事お疲れ様」
「直哉もね」
「いやぁ、今日は定時で上がれたから大したことないよ。だからゆっくり、しようね」

 ゆっくり、の後にわざとらしく一呼吸おいて笑う直哉はもうすっかり大人の顔。遊園地に誘うような無邪気な笑顔で私の手を取った、一分前の気配はもう何処にもない。その顔に、一つ年下の私は精いっぱい背伸びして微笑み返す。
 ほら、夜が来たのだ。

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