「可愛いだけで終わらせないで」思い出を塗り替えるオトナの再会 (ページ 3)
昔はあんなに頼もしいお兄さんだったのに。
けれど、こんな表情を見せてもらえるくらいには、彼に追いつけたのかもしれない。
「巧さん、ちょっとは意識してくれてるんだ?」
「大人をからかうなよ」
「私だってもう社会人です」
「そりゃそうだけど…。いや、だからこそっていうか、ああもう…」
困った表情から、すっと凛々しい顔になって、彼は言う。
「こんな綺麗な女性になったら、そりゃあ、めちゃくちゃ意識するよ。もう前みたいに、ただ可愛いって思うだけじゃ済まないと思う」
そんなことを言ってもらえる日がくるなんて、昔の私は思いもしなかった。
追いつこうと必死で、でも頑張れば頑張るほど、無理に背伸びする子供だと惨めになって。
むしろ彼は遠ざかっていくような気がしていた。
いまは、手を伸ばせば、少しだけ勇気を出せば、彼に手が届くはず。
「可愛いだけで終わらせないで。私、巧さんのこと―――」
言い終わる前に手を取られ、指がきゅっと絡んでくる。
そのまま言葉少なに「こっち」と手を引かれ、私たちは歩き出した。
彼のマンションに向かうんだろうということは、歩き出した先が私たちの家の方角とは違うことですぐに分かった。
雨上がりの蒸れた空気のせいで、少しだけお互いの手が汗ばんでいた。
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