俺は女性向け風俗の従業員。ある日、無理やり連れて来られた女性を誘惑したけれど…? (ページ 3)

「高弘…さ…ん…」

耐えかねたように、美咲さんは俺にしがみつく。

その額や頬に、音を立てて口づける。

それは、俺がかつて恋人にしていたことだった。

無意識にそうしてから、俺はそのことをぼんやりと思い出していた。

でも今は、そんなことよりも、美咲さんが感じてくれていることが嬉しい。

こうして、俺を抱いてくれていることが、この上なく幸せだ…。

眉根を寄せて感じている彼女と、ひとつになりたい。

この人に、俺のものを、俺自身を、受け入れてもらいたい。

禁じられた欲望に気付いた俺は、愕然とした。

俺は、仕事でやっているんだ。

女性たちを性的に満足させて、報酬を得るんだ。

特定の人を本気で抱きたいなんて…。

まるで、おもちゃで満足できずに、本物をちょうだいなんて駄々をこねる人と同じだ…。

でも俺は、ただ欲望に任せて、美咲さんを抱きたいわけじゃない。

この人の男になりたい。

この人の恋人と呼ばれたい。

こんな部屋じゃなくて、俺の部屋に連れて帰って、何のしがらみもなく貪りたい。

「高弘…さん…?」

葛藤する俺を変に思ったのか、美咲さんが俺の名前を呼んでくれた。

そのことが、たまらなく嬉しい…。

俺は、手から電マを落とした。

いつの間にか、俺の目からは、涙がひと筋伝っていた。

「どうしたの…?」

言ってはいけない。

そう頭では理解していても、本心が俺の口を突いて出た。

「好きなんだ…。美咲さんが、好きなんだ…」

困らせるだけだろうと思っていたのに、思いもかけず、美咲さんは優しく微笑んでくれた。

「ありがとう」

美咲さんはベッドの上に上半身を起こすと、俺の頬に口づけてくれた。

そして、ベッドを降りて、服を着ようとした。

「いやだ!行かないで!」

俺は、背後から美咲さんを抱きしめ、痛いほど張りつめたものを押し付けた。

「美咲さんが…欲しいんだ…」

少しの間、考えるような仕草を見せてから、彼女は言った。

「この店のこと…先輩から少しは聞いてるわ。本番は禁止だって。だから、欲求不満が残る人もいるみたいね。でも、女の人たちは、何かを求めて、ここに来るのね。それは、あなたみたいな男の人かもしれない」

ひと呼吸置いて、美咲さんは言葉を継いだ。

「あなたみたいな優しい男の人を、世間の女の人は求めてるみたい。たとえそれが、仮初めの優しさでもいいからって…」

美咲さんに対する気持ちは、仮初めのものなんかじゃない。

でも、それは何故か言葉にならない。

「欲求不満を満たしに来るわけじゃなくて、男の人の優しさに癒されたい人が多いのかもね。これからも、頑張ってね」

手早く服を着た美咲さんは、この部屋を出ようとした。

俺はとっさに、ドアの前に立ちはだかった。

「いやだ、帰らないで!抱かせてくれ!」

涙を流してそう訴える俺を押しのけるようにして、美咲さんは出て行ってしまった。

俺は、その場にがっくりを膝を付いた。

頭の中には、さっきまでの彼女の顔が、走馬灯のように駆けめぐっていた…。

傷心の俺だったけれど、この仕事を辞めるつもりはなかった。

先輩に連れられた美咲さんが、また来てくれるかもしれない。

あるいは、俺の優しさとやらを求めて、また彼女が来てくれるかもしれない。

その時は、どこの誰なのかを問いただすんだ。

それを教えてくれるまで、彼女には指一本触れない。

いつ来てくれるかもわからない人を待ちわびて、俺は今日も、女性たちを酔わせる。

目の前の女性が美咲さんだと思い込みながら、仕事をしている。

1日も早く、再会を果たしたい。

それだけを願いながら。

-FIN-

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