ファンタジー世界に転生したら、拾ってくれた魔術師にいつの間にか愛されていた私
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ファンタジー世界に転生したら、拾ってくれた魔術師にいつの間にか愛されていた私 (ページ 1)
二十数年間、現代日本で確かに生きてきた私はあの日、不慮の事故で命を落としたはずだった。
――けれど。
「アルル、そこの棚にある瓶取って」
「はい、リィンさん」
名前を呼ばれて、私はイスから立ち上がる。
そしてリィンさんに言われた瓶をさっと棚から取り、彼に渡した。リィンさんは「ありがとう」と言ってそれを受け取り、机の上に広げた魔術書とにらめっこをする。
――アルル、というのが今の私の名前だ。
事故に遭い、目が覚めたら、私はファンタジーとしか言いようのない世界にいた。
ここは科学ではなく魔法の力によって支えられている。
右も左もわからず、ほとんど行き倒れのような状態だった私を気まぐれに拾ったのがリィンさんだった。
リィンさんは王宮から招集されるほど、力のある魔術師だ。けれど本人は周囲からどれだけ称賛されようとまったく興味がないらしく、辺境の地に魔術工房を構えて、そこでひっそりと暮らしている。
気まぐれに拾われた私は彼がおもしろがるままに、生活を共にし、魔術の実験にも付き合わされていた。
彼と一緒に過ごすようになってもう何年経つだろう。
「リィンさん、最近根詰めすぎじゃないですか? ちょっと休憩にしましょう」
最近のリィンさんは様子が少し、変だ。
前までは楽しそうに魔術の実験を行っていたのに、今は何かに駆り立てられるようにして魔術書を読むことが増えている。
私が声をかけてもリィンさんから返ってくるのは「ああ、うん」という生返事だけだった。
*****
リィンさんが王宮に招集された日、私は、ひどく億劫そうしぶしぶ出かける彼を見送った。
ここしばらくずっと実験室にこもりっぱなしだったから、ちょっとした気分転換になるかもしれない。
リィンさんが出かけてる間、掃除も済ませてしまおう。
私には使い方のよくわからない器具をやたらに触らないように気をつけながら掃除をしている最中、ふとリィンさんがいつも使っている机が目に入る。
「そういえば、リィンさんずっと真剣に何を読んでたんだろう…」
魔術書を見たところで私には理解して読むことなんてできないだろうけど。
それでもちょっとした興味が湧いて、机の上で開きっぱなしになっている本を覗き込む。
「え……」
ちょうど開かれていたページには、「異世界へ転移する術」について記されていた。
――異世界。
心の中で反芻すると同時に、緊張で胸がどくりと変に高鳴った。
現代日本で生きてきた私にとって、前世の記憶がある以上ここは異世界といえる場所だ。
科学ではなく魔法によって繁栄した世界。
もしかして、私がこの世界にきたのはたんに転生したからではなくて、何か魔法が――。
そう思ったところで、ふいに部屋の扉が開く音がした。びっくりして思わず反射で振り返る。
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