彼の死から二年。ずっとそばで支えてくれていた眼鏡男子が、突然私の手首の自由を奪ってきた。 (ページ 2)

怖くなったので逃げようと身をよじった。だけど強い力で手首をつかまれ、一番近くの壁にはりつけられてしまった。

「きゃっ!」

私を壁にはりつけたまま、青井が眼鏡の顔を近づけてきた。

「逃がさない」

「青井……」

「見ろよ。写真のあいつが、こっちを見てる」

青井が意地悪なことを言いながら手首をぎゅっと強く握り、さらに顔を近づけてくる。

「……なに、するつもり? だめだよ、青井」

「なにするか察しはついてるんだろ?」

目をそらそうにも、はりつけられてて思うように動けない。目を閉じたら受け入れることになってしまいそうなので、閉じることもできない。

「気持ちの整理ができないなら、一度ぐちゃぐちゃに散らかしてしまえばいい」

青井が私によりかかってきた。はりつけられている手首を強く強く握られながら、腕も、肩も胸も、下半身も、重なりあっていく。

顔までもくっつきそうなほどの近距離だった。こんなに間近で青井を見たのは初めてだった。眼鏡の奥の真っ黒い瞳に、吸い込まれそうになる。

「このまま、あいつの前で、キスしてみる?」

「だ…だめ」

言葉とは裏腹に、足と足のあいだがかあっと熱くなり、とろんと熱い液体があふれ出てきた。そんなことは本当に久しぶりだった。

彼が亡くなってから、淫らな快楽なんていうものは私の中から抜け落ちていた。淋しくて自分で自分を慰めたことはあった。だけどいつも途中で彼を思い出し、気持ちよくなり切れず、結局泣いて、終わっていた。

「青井、だめ、だよ」

――だって写真たての中から、彼が笑顔でこちらを見ている。

――じゃあ、彼が見てなかったらいいの? それって浮気ってことじゃないの?

「だめなことくらい判ってる。俺だって桃香たちはこのまま順調に結婚するものだと思ってた」

青井は子どもみたいに私をにらんできた。

「だけどあいつは死んで、俺は生きてる」

そう言って、喪服のひざを、私の足のあいだに強引にくいこませてきた。

「熱い……桃香、濡れてるのか?」

青井のひざが、ぐりぐりと私の陰部を刺激する。

「あっ……やっ」

「このまま流されて俺に抱かれろ。人生が変わるくらい、気持ちよくしてやる」

「えっっ?」

「キスするぞ」

律儀でやさしい青井が、わざわざ宣言して私の口をふさいできた。

「んっ…青井」

これまでの少し怖い雰囲気とはうってかわって、愛撫のようなやさしいキスだった。気持ちよすぎて、体から力が抜けていく。私がずるずる落ちていかぬよう、青井が支えてくれた。

「はぁっ」

「桃香」

お互いの唇の感触を確かめ合うように、何度もキスをする。冷たくてかたい眼鏡が顔にぶつかるたびに、キスの相手が彼ではないことを思い知る。だけど止まらない。

コメント (0)

コメントを書く