彼の浮気現場をこっそり覗きながら、同時に一人でエクスタシーを感じる狂った私 (ページ 2)

 加奈子は潤一の隣へ移動して、珍しくビールを渡したり、軽くスキンシップを交わしたり、彼女の存在感をアピールした。加奈子の中で、何かがくすぶり始めていたのかもしれない。

 後輩のようなキャラにはとてもなれないことはわかっているし、嫌な反面、羨望もあったのかもしれない。

 バーベキューが始まると、男性陣がいそいそと肉や野菜を焼き始め、子供たちは嬉しそうに頬張り、少しずつ大人たちのお酒も回り始めていた。

 潤一も加奈子もお酒は強い方で、酔うと陽気になる。ところが、加奈子は少しいつもよりも酔い方が違った。

「なんか頭が痛くなってきた」

「大丈夫か?そんな飲んでないのにどうした?」

「ちょっと向こうで休ませてもらうね」

 加奈子が奥の部屋に行き、ソファーにもたれかかる。すぐに潤一が水を持ってきて加奈子の様子をうかがう。

「帰る?」

「ううん、少しだけこうしてたら大丈夫」

「帰りたかったらすぐに言えよ」

 潤一がそう言って加奈子の額にキスをした。ほんの一瞬の出来事だった。

 唇を重ねたら、加奈子のスイッチが入ることを潤一は知っている。だから、あえての額だろう。こんな潤一の悪戯が加奈子は好きだった。

 ところが、なぜか誰かの視線を感じた。

 向こうの庭のテーブルから加奈子を見つめる視線。はっきりとはわからないけれど、なぜか敵意を感じる視線。

 後輩が立っていた。

 みんなが和気あいあいとする空間で、加奈子だけが確信した。あの女は潤一を狙っている!

 休んでいる場合ではなくなった加奈子は、ほんの少し休憩をしてみんなの輪に戻った。

*****

 
 あっという間に夕方になり、それぞれが後片付けを始めていた。

「酔っぱらったの?」

 男性陣が後輩を囲んでいる。

「大丈夫でーす!」

 さりげなく潤一の肩をポンと叩き、上目遣いで見つめる。きっと後輩のもっちりした谷間が潤一の視界に入っているはずだ。

「タクシーで帰るの誰だっけ?」

 誰かの確認に、後輩が手を上げた。

「私、三つ先の駅ですけど、途中まで一緒の方いませんか?」

「俺たち隣町だから、一緒に乗ろうか」

 答えたのは潤一だった。

 後部座席に三人は嫌だと、加奈子が潤一に目配せをする前に、後輩が答える。

「わーい。一緒に帰りましょう!ねー、加奈子さん」

 本当に頭痛がしてきた。この女が何かを企んでいるようだし、とにかくイライラしてきたのだ。
 
 それでも誰も何も疑うことはない。結局、三人でタクシーに乗り込んだ。

「どちらまで?」

「えっと、先に下ろしていただけますか?そのあと、また別に一人が降ります」

「かしこまりました」

 潤一が自分たちの行先を告げる。一番先に乗り込んだのは加奈子。真ん中に潤一が座っている。だから、加奈子は女がちょっかいを出さないかひやひやしていた。

 夕方なのにまだ明るい街並みを窓から眺める。暑さで今から買い物に出かける人も多く、道は混雑していた。

 すると、女が小声で思わぬことを言いだした。

「あの…、恥ずかしいんですけど、一緒に降りるのでトイレをお借りできませんか?」

「えっ?いいけど、大丈夫なの?」

「すみません…。大人げなくて…」

「運転手さん、すいません、三人で降ります」

 潤一はそう言ったけれど、加奈子は何も考えたくなかった。

 潤一の部屋になぜ三人で帰るのか、意味が分からない。二人が先に降りてから自分で好きなように行動すればいいのにと、厚かましい申し出を受ける潤一にも腹が立ってきた。

 それでも三人で部屋に入る。本当に潤一の部屋に女も上がり込むことになったのだ。

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