絵画専攻の後輩がそそぐ穏やかで焦れったい愛に、私の方が余裕がなくなってしまった。
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絵画専攻の後輩がそそぐ穏やかで焦れったい愛に、私の方が余裕がなくなってしまった。 (ページ 1)
黒鉛がザッザッと紙で削れる音しかしなかった部屋。いまは呼吸の音さえも聞こえないくらい、静寂しきっていた。
ほんの30秒ほど前までは、いつもと何ら変わらない空間だった。
散らばる画材、スケッチブック、写真。天盤付きのベッド、3つも4つもある枕に膝をついて、まるでフランスの官能的な女性のように私が横たわる。
夜23時、彼のデッサン室と化したラブホテルの1部屋。
いつもと違ったのは、突然の地震だった。
小さかったけれど、まるで海の波に揺られるように地面がしなった。私が驚いたのは、その揺れよりも彼が覆い被さってきたことだった。
画板と鉛筆がカーペットに転がされ、安いベッドのスプリングが鳴った。何がおきたのか理解できたのは、彼の目にかかるほど長い前髪の奥の睫(まつげ)がゆっくりと上がり、真っ黒な瞳が私の目を射抜いたとき。
「……すみません」
私の右側には腕をついたまま、彼はずり落ちそうだった眼鏡を3本の指で顔を隠すように押し上げた。ギシ、とスプリングが一度鳴って、私の下半身を両膝ではさむ体勢で上体を上げた。
「功太くん、かっこいいところあるじゃん」
「いえ、今のは……事故ですよ。驚かせてしまってすみません。震度2もなかったですね」
謝ることじゃないのに、彼はそういいながら私の体の上から降りた。
彼がいなくなった視界は、いかにもラブホテルといったベッドの天蓋が大半を占めた。安っぽいピンク色で飾られたレースカーテン。
仕事で忙しくなってから、全然セックスしていない。
画材を片付けている彼。大学の後輩というだけの彼とは、ホテルに来てもただモデルをするだけだ。
後輩というだけの関係なのに、裸を見られて恥ずかしくないのかと、彼にも聞かれたことがある。私も油絵を専攻にしていたから、裸体は被写体という認識でいる。最初はさすがに恥ずかしかったけど、卒業制作にいいものを描きたいと言う彼を応援したい気持ちの方が勝ったのだ。
「でも、私とセックスしたいとは思ったことないの?」
「……はい?」
彼は猫背でしゃがみこみ、散らばった筆を手にしたまま振り向いた。
「私の魅力って、モデルとしてだけ?」
「そんなことないです」
はじめて彼が食い気味に応えた。私はなんだか心臓が、ぎゅん、となった。
「さっきも……事故とはいえ、すごく魅力的でした。あの表情。里沙さんの薄い唇も、長い睫毛も、細い首も、とても女性らしい」
熱い言葉を、彼はカーペットに視線を落としながらそう言った。
「ねえ。なら、ちゃんと私の目を見て言って」
彼は私の言葉を察したらしい。顔を隠すように眼鏡を押し上げて、少し動きを止めてから筆をまとめて床に置いた。
「嫌だと言ってくれたら、すぐに止めます」
ベッドのスプリングが時間をかけてゆっくりときしんだ。
再び彼の瞳が降り注ぐ。今度は最初から私の目を射抜いていた。
ラブホテルらしい水音が口腔から鳴らされる。熱い舌が絡んできて、思わず声が漏れてしまうと、彼はまるで笑ったように息を小さく吐いた。
大きな手が私の頭を包み、硬くなった指先が耳たぶをこねた。そういえば、前の男に開けられたピアスの穴はもう塞がっていた気がする。
片手が頬を滑り、首筋を滑り、鎖骨を撫でた。
私も彼の腰に手をやり、薄いTシャツのなかに滑らせた。彼の背中は意外にもしっかりとしていて、分厚かった。
彼には何度もスケッチしてもらっていたけど、体を重ねるのはこれが初めて。私は彼のことを全然知らなかったんだと、ただの男の表情をした彼を見てそう思った。ぷつ、と銀糸がとぎれる。
Tシャツを脱ぐ動作が、これから私を補食するのだということを伝わらせた。大きな体が伸び、露になった上体は、美術専攻らしからぬ肉体だった。
ジーパンのファスナーを下ろすと、グレーのボクサーパンツがキツそうに膨らみ、一点だけ濃いシミを作っていた。
私は下半身がキュンと疼いた。セックス自体が久しぶりなのもあって、彼が勃起しているというだけで私はかなり興奮してしまった。そして暖色の照明がよけいに興奮を煽る。
*****
「ン……はあ、……っ、……ン」
今まで経験したなかで一番のお腹の充実感。むしろ苦しいくらいに満たされた。
「っ、ふ、……ん、ああ……、う、……あぁ」
しかも、今までにないくらい丁寧に、ゆっくりと動かれている。彼は果てる気がないのかもしれない。それくらいに、まるでマッサージをするみたいに、のろく抜き差しされた。
ぬるま湯の心地よさが寄せては引いていく。
そして彼が私のなかを出入りするたび、イヤになるくらい感じてしまう。私の下半身はいやらしい音を出す液体でベタベタだ。恥ずかしくて、私を見下ろす彼の顔が見れなかった。
「里沙さん、痛くはありませんか」
そんなわけないでしょう。
彼はまるで処女を相手にしているようだ。
ズル、と彼が私の体内を抜けていくと惜しくなって思わず体に力が入ってしまう。
「きもちよすぎて……」
「それならよかったです」
上気した顔が微笑んだ。彼は大きな右手を私の下腹に乗せ、そこを狙うように深く腰を押し込んだ。
「~~ッンあぁぁ」
「もう少し、里沙さんのなかに入らせてください」
頭のなかが、世界中の甘味を煮詰めたものを流し込まれたみたいにドロドロに溶けた。
「痛くはないですか」
私は口元を押さえながら何度も頷くことしかできなかった。
でもその手は彼によってベッドに避けられ、変わりに彼の唇で塞がれた。口のなかに快感を直接注ぎ込まれた感覚だ。全身が熱くて、すべてが性感帯と化していた。
私の手を押さえていた彼の指が離れていき、代わりに肩を抱かれた。
「っあ……ッ」
いっそう深まった密着。中に入っている彼の先端が、私の最奥の固いところをコツンと刺激した。思わず腰が跳ねてしまった。
彼はゆっくりと抜いて、またゆっくりと、その固い部分を撫でるように挿入した。
「ふ、ぅ……、あ……あぁ、んあっ……」
「里沙さんの中、熱くて……気持ちいいです……。つらくはないですか」
耳元で囁く声。低い音の振動が、密着した体からも伝わった。
「もっと……、もっと、してぇ……激しくていいからぁ……っ」
思いがけず、懇願するように私はそう口走った。
彼の上体が離れていった。でも彼の手はまだ私の体に添えるように触れてた。
長い前髪の奥。彼の瞳は揺れていた。まるで獣に豹変(ひょうへん)したようだった。
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