秘密のおじさん。 (ページ 2)
「こ、怖がらないでね。とにかく、もうキミは帰らないと。変なこと考えてちゃ駄目だよ。お家の人も心配するよ。」
そう言われて、わたしは勇気を振り絞りました。
「おじさん。もうすこし、一緒にいてもらっていいですか…。」
「ええっ!?」
おじさんは呆気にとられていました。
「寂しいんです。どうせ親も帰り遅いし。わたし、一人っ子なんで家に誰もいないし。駄目…ですか?」
「そうなのか。いや参ったな…。まさかキミの方から、一緒にいてなんて言われるとはね。生きていれば色んなことがあるものだ。ハハ…。」
「おじさん、名前、なんていうんですか?」
「僕の名前…?僕はユウジといいます。キミは?」
「ミズキ。」
「ミズキちゃんっていうのか…。良い名前だね。改めて、よろしくね。ミズキちゃん。」
下の名前でちゃん付けされるなんて、わたしには滅多にないことでした。
「よろしくです。ねぇ、ちょっと散歩しませんか。ずっとここで喋ってるのもなんだし。」
「えっ…。あっ、ああ。いいよ、僕は。」
すっかり日も落ちて、街灯の明かりだけを頼りに公園を歩きました。
「おじさんは、家族いないんですか?奥さんとか。」
「…いないよ。ずっと一人暮らしのヒラ社員。」
「へぇ、独身なんだ。」
「そうだよ…じゃなきゃ毎日この時間に公園なんかウロつかないさ。悲しい中年だろ。ハハ。」
夜の森林公園には、虫の声と木の葉が風に揺れる音しか聞こえません。
なんだか憂いを帯びた人だけど、優しくしてくれるおじさんと2人きり。たわいの無い会話。
わたしは少し大胆になっていました。
「ねぇ、ねぇおじさん、手をつないでくれませんか?」
「へ!?いきなり何を!?」
「わたし、そういうことしたことないの。いいですよね?ね?」
「僕はいいけど…ミズキちゃん、いきなりどうしたの。」
狼狽えるおじさんを尻目に、わたしの心ははしゃいでいました。
「だっておじさん、わたしのこと、前から見てくれてたんでしょ?さっき言ってたじゃん。」
「そ、それはそうだが。」
「それって、わたしのこと気になってたってことじゃないの…?」
「………。」
「違うの……?」
「ミズキちゃん……僕のこと誘ってる?」
「おじさんが、わたしのことを好きなら……。」
おじさんがゴクリと唾を飲んだのが分かりました。
「ねぇ、わたしの手、握って…? …ユウジ」
「いま僕のこと、名前で……」
おじさんは、私の左手首をそっと掴んで、ゆっくりと優しく、指を絡めてきました。
コメント (0)