「もっと、エロい音、聴かせて」売れないミュージシャンにかき鳴らされる身体 (ページ 2)
「今日のライブだって、俺の歌ちゃんと聴いてくれてたの、リコさんだけだったし」
「また、そうやって、ネガティブになる。カイの歌は色んな人に届いてるって」
私はよしよしと、カイの黒髪を撫でる。
少し硬い髪質は、大型犬を思わせた。
「リコさん、俺もう、疲れたよ」
変に高い声色でカイが言う。
「何それ?」
「フランダースの犬っす」
「カイがパトラッシュ?」
大型犬を連想していたせいで、思わず笑ってしまった。
「なんで、俺が犬なんすか。ネロですよ。薄幸の天才少年っす」
「自分で天才って言うあたり、ミュージシャンって感じだよね」
「そうですか?」
「うん。カイは間違いなく、ミュージシャンだよ」
私の言葉に、やっとカイが安堵したように微笑む。
この繊細さも、ミュージシャンらしさと言えるかもしれない。
「俺がネロなら、リコさんはパトラッシュっすね」
「私が?」
「俺と死んでくれそうなの、今のところリコさんだけですもん」
妙に色っぽい目線。
歌っている時にはよくやるけれど、普段はやらない目つき。
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