「俺とセックスしませんか」と微笑む彼の目の奥が冷たくて

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「俺とセックスしませんか」と微笑む彼の目の奥が冷たくて (ページ 1)

「わりぃ。俺もうお前のオトモダチやめるわ。」

彼が、経営するショットバーで珍しくバツが悪そうにそう言った。

「え?」

「女、出来た。だから無理。」

煙草を携えたゴツゴツとした手に握られたグラスから、氷がカラリと音を立てた。

「あ・・そう。」

上の空でそう言った。

なんで?今までだって彼女みたいな人は、数え切れない程いたのに。

その言葉は、甘いカクテルと一緒に喉を通って体の奥にしまった。

彼は、そういうのを望まないだろうから。

「悪いな。」

大きな手で私の頭を、ぽんぽんと撫でた彼は、困ったように笑った。

しばらく会わない間に、こんなに柔らかに笑う彼に驚いた。彼とは学生時代からの付き合いだけど、こんなに穏やかに笑う姿は初めて見た。

そっか。見つけてしまったのか。

「先に抜けるなんてなー。」

「俺もこういう風になるなんて予想外」

穏やかに笑いながら煙草を吸う横顔を見ると胸がチリリと傷んだ。

その幸せそうに笑う口元が少しだけ憎い。

もうあの手に私が触れられることは、ないんだ。

「じゃ、俺帰るわ。椿ならいつでもタダだから、好きに使え。智哉」

彼は私の頭をクシャッと撫でてから、カウンターの奥に向かって声をかけた。

カウンターの奥から、見たことが無い子が出てきた。

サラサラの黒髪と、色素の薄い切れ長の瞳に、薄く形のいい唇。

捲りあげた袖口から覗く腕に浮かぶ筋は芸術品のように綺麗な線を描いていて、見惚れてしまった。

儚げで優しそうなのに、なんだか目の奥が笑ってなくて表情が読めない。だから警戒した。

智哉は私と目が合うと、僅かに口角を上げて笑った。

「新入りなんだ。智哉、こいつは椿っていって俺の幼馴染み。椿はタダでいいから。」

「分かりました。智哉です。宜しく、椿さん。」

微笑みながら差し出された手に、一瞬ためらったが、観念するように手を合わせた。

骨ばった冷たい手が私の手を握った。

瞬間彼の中指が私の掌を、なぞるように刺激した。

その感触に驚いて思わず手を離した。そんな私を、智哉は何もなかったかのように目を細めて笑った。

傍から見たら、ただの握手にしか見えないと思う。実際私達のやり取りを見ていた彼は、気付かずに「じゃ、あと宜しく」と言って私達に背を向けてバーを出ていった。

智哉と視線が合うと、ニコリと笑った。その笑ってない目を奥に隠して。

「何か飲みますか?」

「あ・・うん。じゃ、何か強めの。」

「はい。」

カウンターの中でカクテルを作る智哉を眺めながら、くわえた煙草にジッポで火をつけた。

コースターについた水滴の染みを何となく眺めて、薄く流れる曲に耳を傾けた。

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