お金を巻き上げるつもりで近づいたリーマンに知らない感覚ばかりを教えられて芽生えるもの (ページ 6)
神原は、溶けるように微笑んで、私のほうに顔を寄せた。
熱くて、柔らかくて、清潔で、優しいけど強引な唇が重なってきた時。
神原を飲み込んだ場所が、急速に熱を帯びて、うねるように大きく痙攣するのを感じた。
「最初から私のこと、バカにしてたんでしょ」
悔しくて、もらったお札を投げつけた。
こんなの受け取ったら、私のプライドずたずただ。
ワイシャツを着た神原は、怒った様子もなく4枚とも拾い上げると、半分に折って私の手に握らせる。
「これはあげる。その代わり、もうこんなことやめて、お小遣いが欲しくなったら俺の家へおいで」
これまでも、私を買った男が勘違いして、自宅に誘ってくることはあった。
でも、この誘いは、それとは違う。
全然違うせいで…どうしたらいいかわからない。
「…他にも、いっぱいいるんでしょ」
「何が?」
「先月って…」
鏡の前でネクタイを締めながら、ああ、と神原が笑う。
「嘘だよ、あんなの。10代の子なんて、自分が10代の時以来だよ」
「10代以外なら?」
「あのね、大人はそんなに、暇じゃないの」
スーツを着て眼鏡をかけると、また別人に戻った。
清潔で知的なサラリーマン以外の、何にも見えない。
でも私はもう、この男の隠してる顔を、知ってる。
きっと周りの誰も知らない、ほんとの顔を。
お札を握りしめて、覚悟を決めた。
「…住所、教えて」
優しい目が、愉快そうに微笑んだ。
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