お金を巻き上げるつもりで近づいたリーマンに知らない感覚ばかりを教えられて芽生えるもの (ページ 5)
「いい加減、名前、教えてよ」
身体が密着しすぎないように、私の顔の横に肘をついて、頭をなでる。
それはたぶん、私のほうから『ベタベタは嫌い』と言ったせいだ。
泣いてるみたいな音がして、気づくと自分の呼吸だった。
決して激しく動かない神原の、かすかな律動が、私の身体の中で、何倍にも増幅されて響く。
震える手を伸ばして、神原の首に抱きついた。
さすがにちょっとびっくりしたのか、え? と不思議そうな声がする。
でもすぐに、なだめるように私の腕をなでて、名前、と訊いてきた。
何も考えず、本名を口にした。
「夕夏…」
「夕夏ちゃんか」
耳元で名前を呼ばれると、心臓が鳴った。
この男の声、やばい。
「ねえ」
「ん?」
「キスして」
神原が、ぽかんと私を見下ろした。
「キスはなしだよ、って自分で言ってたよ」
「いいから、してよ」
この男がするキスなら、受けてみたい。
全部差し出すから、愛してほしい。
「してよ…」
命令のつもりだったんだけど、その声は弱々しくて、どう聞いても”お願い”だった。
コメント (0)