突然の夕立と幼なじみとの再会。雨宿りの車の中で二人は熱く濃密に…

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突然の夕立と幼なじみとの再会。雨宿りの車の中で二人は熱く濃密に… (ページ 1)

地下鉄の駅から外へ出ると、遠くから雷の音が聞こえて来た。夕方の空は灰色で、しまったと思った時には、頬に冷たいモノが当たった。

「やっば。傘忘れた」

 朝、天気予報を見て、折りたたみ傘を入れておかねばと思って、そのまま忘れたのだった。家まで歩いて15分。走るしかない。

 わたしは、タイトスカートに5センチヒールで走り出した。どうか家まで持って。

 だけど、そんな祈りもむなしく、ぽつんぽつんと降ってきた雨は、あっという間に土砂降りになった。歩道の上は川のように水が流れて滑りやすくなり、タイトスカートは雨水を吸って、足にまとわりつく。

「あっ」

 と思った瞬間、私は足を取られて、思いっきり転んでしまった。パンプスが片方吹っ飛ぶ。

「おっと」

 地面にぶつかるはずだった私の身体は、逞しい腕に支えられた。

「す……すみません……」

「大丈夫ですか? ……って、ハルカ?」

「えっ? あ、タクヤ?」

 私は自分を支えてくれている相手をまじまじと見つめた。そこに居たのは幼稚園時代からの幼なじみのタクヤだった。タクヤは体勢を立て直している私に、傘を差し掛けてくれた。

 思わぬところでの彼との再会に、私の心臓は大きく跳ねた。

「どうしたの? 就職して東京へ行ったって聞いてたけど」

「うん……今、ちょっと帰ってきてるんだ。ハルカ、お前、傘は?」

「忘れてきちゃって、走って帰るとこ」

 雨はどんどん強くなってきた。傘に当たる雨音はバラバラと鳴る。

「しょうがねえなあ。そこに車停めてあるから、家まで乗せてってやるよ」

「あ……でも、私びしょ濡れだし、車も汚れるから」

「遠慮するなって。ほら、そこ」

 タクヤは目の前の銀行の駐車場に停めてある車を指差した。

 この大雨だ。走って帰ったところでびしょ濡れになる。タクヤの申し出はありがたかった。しかし、私はまだ躊躇していた。

 タクヤは幼なじみで、――初恋の人だった。ただ、告白することもなく、私は失恋してしまった。何事もなく終わってしまった恋だけど、タクヤに見つめられると、まだ胸の奥に小さな痛みを感じる。

 その時、あたりが輝くとほぼ同時につんざくような音が響き渡った。

「キャーッ!」

 雷の音に私は震え上がると、タクヤの車に二人揃って逃げ込んだのだった。

***

 雨はますます酷くなる。フロントガラスの上を、滝のように雨が流れていた。

 隣で運転しているタクヤに言った。

「すごい雨だけど、運転大丈夫? 前見える?」

「ああ、ゆっくり運転していくから大丈夫」

 そこで会話が途切れた。地下鉄の駅から自宅までは車なら大した距離じゃない。

 高校を卒業してずっと会っていなかった。他愛もない会話が出てこなかった。

 ああ、でも言わなければいけないことがある。

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