専業主婦がハマった理想の彼とのデートと甘い時間 (ページ 3)
樹が連れていってくれたのは、都心から少し離れた、ファミリー向けの少し古びた遊園地だった。
土曜日だというのに、園内はやや閑散としている。
けれどそのほうが、人目を気にせず、思いきりはしゃげる。
コーヒーカップに乗ると、樹は目いっぱいハンドルを回した。
「きゃあ! 待って、待って、目が回っちゃう!」
ジェットコースターでは悲鳴をあげて彼にしがみつき、メリーゴーラウンドでは追いかけっこ気分。
「はい。喉乾いたでしょ」
と、差し出されたソフトクリーム。
「ねえ……。訊いても、いい? どうしてこんな、レンタルボーイなんて、やってるの?」
思わず口に出てしまった質問に、彼は小さく笑った。
「ん、まあ――お金のためっちゃ、ためなんだけどさ」
そしてジーンズのポケットから、くしゃくしゃに折りたたまれた一枚のチラシを引っ張り出した。
「オレ、本職はモデルなんだ」
チラシは、瑠依も知っている全国チェーンの衣料品量販店のものだった。その中にたしかに、飾り気のないパーカーを着た樹の姿がある。
「でも、仕事なんて、こんなんくらいで、とてもじゃないけど食ってけなくて。ホストとかのほうが儲かるんだろうけど、ああいう店って、なんつーか、ノリが体育会系でさー。先輩の言うことは絶対!みたいの、オレ、どーも苦手で。その点、このレンタルボーイなら、事務所や客と一対一で、横のつながりがないから、気が楽なんだ」
「そうなんだ……」
明るく元気いっぱいに見える彼でも、やはりいろいろ苦労しているみたいだ。
「ほんとはね、オレ、芝居やってみたいんだ。ドラマとか、映画とか。歌も歌ってみたい」
「CD出たら、あたし、絶対買う。ファンクラブ入る!」
「マジ?」
「マジマジ! もう、追っかけしちゃうんだから。コンサートとか、手作りのウチワと、ペンライト持って!」
「ありがと! オレのファン第一号だ!」
そして観覧車に乗ると、
「オレ、一度やってみたかったんだ。観覧車のてっぺんで――」
樹はそっとキスをしてくれた。
ただ唇を重ねるだけの、優しい、おとぎ話に出てくるような、キス。
小さな観覧車から見下ろす風景は、すでに夕暮れの茜色に染まっている。
彼のレンタル時間も、そろそろ終わりだ。
――まだ、別れたくない。一緒にいたい……!
「ねえ、あ、あの……」
「うん――」
言葉にできないもどかしい気持ちを察してくれたのか、彼は優しく瑠依を抱き寄せた。
「ほんとは、お客さんとキス以上のこと、しちゃだめなんだけど……。あなたとだったら、いい、かな――」
「樹くん……」
「今夜は、もう少し遅くなっても、平気?」
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