専業主婦がハマった理想の彼とのデートと甘い時間 (ページ 2)
「あのさ。来週の土日、泊りがけで出かけてもいい? 学生ん時の友達に誘われたの。何とかホテルのレディースプランとかって」
夫に嘘を言い、瑠依は結婚してから初めて、ひとりで都心へ向かった。
一泊二日の予定だけれど、ホテルなんか予約していない。
予約をしたのは。
「初めまして、樹です。今日は呼んでくれて、ありがとう!」
待ち合わせ場所のカフェに現れたのは、メンズファッション誌から抜け出してきたみたいな、お洒落でさわやかな好青年だった。
――そう。予約したのは、彼。
今日だけの、臨時の恋人。
レンタル・ボーイ。
――う、うそ……。うそ、マジ!?
瑠依は思わず息を飲んだ。
HPに掲載されていた写真より、何倍もかっこよくて、……可愛い。
「えっと、瑠依さん、だよね? オレ、人違いとかしてないよね?」
「あっ! う、うん、そう! あたしです!」
慌てて立ち上がり、ぴょこっと頭をさげる。
「は、初めまして!」
「うん、じゃ、オレも改めて、初めまして! ね、座ろ? ふたりで突っ立ってると、けっこう目立っちゃうし」
「あ、ご、ごめんなさい。あたし、こういうの、初めてで……」
「大丈夫、みんなそうだよ。緊張しないで――って言っても、まだ無理か」
まるでドラマに登場しそうな、人懐っこい明るい笑顔。
そんな表情で見つめられたら、ますます心臓が暴れだしてしまいそう。
「でも、うれしいな。オレ、あなたの『初めて』、ひとつもらっちゃえるんだ」
どこか甘えるような、少し恥ずかしそうなささやきは、暴れる心臓を一気につらぬき、この体からボンッ!とはじき出してしまうかのようだった。
――まさか、こんなにかっこいい男の子が……レンタル・ボーイなんて……。
『淑女の皆様に、夢とロマンのひとときを。ネットでご指名いただくだけで、あなた好みの男性がお迎えにあがります。お食事、ショッピングに、パーティー、ダンス。お好みのままにエスコートいたします。一時間五千円より』
偶然見つけたHPは、最初、出張版ホストクラブか、女性向けデリヘルのようなものかと思った。
だが、サービスの内容はあくまでデート。「一日だけの恋人と夢のような恋愛体験」とも書かれている。
――恋人と、恋愛体験……。
そのキャッチフレーズに、心惹かれた。
夫とは、夢のようなデートなんて、一度もしたことがない。いや、夫とだけではなく、以前に付き合っていた男とも、そんな思い出はなかった。
――そう、たとえば……。
誰もが羨むような、ハンサムで優しい彼氏と、お洒落なカフェでお茶して、夕暮れのロマンティックな街を散歩して。そして夜景を見下ろす公園で蕩けるようなキス。
――あるわけないじゃん。そんな、マンガみたいなこと。
わかっている。自分だって、ちゃんとわかっているのだ。
――でも。
一度くらい、夢を見たい。
冒険してみたい。
そして今、瑠依の目の前に、まさに夢の中の彼氏そのままの樹が、いる。
「ね、どこ行こうか。瑠依さんの行きたいとこ、どこでも連れてってあげる!」
「え、えっと……、じゃあ、遊園地。大きなテーマパークとかじゃなくていいから、メリーゴーラウンドとか、観覧車とかあって……。お、おかしい? こんなの。大人なのに――」
「ううん、全然!」
屈託なく笑うその眼が、口元が、まぶしいくらい。
「よし、行こう、遊園地! いっぱい遊ぼう!」
コメント (0)