雨降る爛れたクラブ帰りに声をかけてきた男に公園の奥で…七夕がもたらした夢と愛 (ページ 7)

「だぁめ」

「んぁっん…何で…ダメなのぉ…」

「だって今日は七夕だよ?七夕は元々、お裁縫が上手くなるように願う行事なんだ。だから天から見てる織姫と彦星に嫉妬されたら、千夏ちゃんのデザイナーになりたいっていう夢を叶えてくれないかもしれないじゃない」

「そんな…んっ、あぁ、またイっちゃう!!」

もうこれ以上ない程に満たされ、優しく髪を撫でてくれる彼に心まで委ねていた。

雨雲は去り、陽の光で白んでくる空。

奮い立たせるように私を立ち上がらせ、乱れていた心ごと服を整え、鬱蒼とした気持ちまでも背中の泥と共に払い落とし、拾い集めたデッサン画を鞄に入れて渡してくれた。

「…また会いたい…貴方の名前…教えて…」

するとその男性は、私達の情事を見守っていた葉っぱをちぎり、私の手の中に収めながら最後のキスをした。

「七夕は終わっちゃったけど…きっと千夏ちゃんの夢は叶うよ。ほら、前を向いて歩き出して!」

私の背中を押す。

それでも名残惜しくて振り返ると、彼は優しく微笑みながら手を振っている。

その姿を目に焼き付け、次こそは振り返らずに歩き始めた。

あれから3年。

私はひたすらに勉強を続け、本格的にデザイナーとしての道を歩き始めた。

あれは一夜限りの思い出…再会出来るなんて思っていないし、あの人も振り返る事を望んでいないだろうと、あの公園へ足を運ぶ事はしていない。

本当は七夕が来る度に思い出すけれど。

今日もそう、社内に飾られた笹の飾り。

足を止め、用意された短冊に今年も同じ事を書く。

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