他人の不幸は蜜の味。セクシー悪女になったつもりで不倫デートを楽しむ私 (ページ 5)
「ひどい……。ひどいよ、あの人、どうして浮気なんか……」
彼女はとうとう、子どもみたいにぐずぐずと泣き出してしまった。
「あたし、毎日すっごいがんばってるのに。ごはんだって、栄養バランスとか考えて、ちゃんと手作りしてるし、あたしだけで遊びに行ったことなんか、一回もないのに」
そういう「アタシ、いい奥さんでしょ」アピールがだんだんうっとうしくなってきたんじゃないの、彼も。
とは思うものの、それをずばり指摘したら、きっと彼女は泣きわめいて手が付けられなくなるに違いない。
だから私は、にこっと笑ってこう切り出した。
「じゃあ、あなたもちょっと、浮気してみたら?」
「えっ、な、なに言ってんの。無理!そんなん、無理、無理!」
「だから、ふり、よ。浮気のふり。ちょっとだけそれっぽい真似して、旦那さんを心配させちゃうの」
「え……」
「あなたがいつもそうやって、文句も言わずに完璧な奥さんしてるから、旦那さんも安心して甘えちゃってるんじゃないの?だから、あなただって男の人にモテるんだってところを見せたら、旦那さんもびっくりして、あなたのこと、ほったらかしにしちゃいけないんだって気が付くはずよ」
「でも、そんな……」
「ほんのちょっとでいいのよ。毎日ラインしたり、後は、お茶したりとか。そのくらいなら、全然問題ないでしょ」
「う、うん。それくらいなら……」
「誰か、気軽におしゃべりできる男性の知り合いとか、いないの?」
「え、うん……。まあ、二、三人なら……」
彼女は少し考えこむ様子を見せた。
きっと、知り合いの中から条件に合う男を探しているのだろう。
「そう、よね。ちょっとラインで話を聞いてもらうくらいなら、誰にも迷惑かけないもんね……。ふたりでお茶するくらいなら、普通だよね――」
ラインして、お茶して。
そこで止まるわけはない。
賭けてもいい。
彼女も必ず、不倫にハマる。
夫とともにダブル不倫。
その後に待ち受けるのが、どんな泥沼の修羅場になるのか、想像しただけでちょっと笑えてくる。
こんなことを思う私は、酷い人間、悪い女だろうか。
でも、私は何もしていない。
常識的なアドバイスをしただけ。
最後の一線を踏み越えて泥沼に飛び込むのは、彼女自身の選択だ。
不倫から足抜けできない彼も、それが彼の選んだ道。
私はただ、それを眺めているだけ。
他人の不幸は蜜の味とは、本当によく言ったものだ。
彼女はもう、目を輝かせてスマホをいじり、相手をしてくれそうな男の連絡先を選んでいる。
私もにこやかにほほ笑みながら、そんな彼女を優しく見守っていた。
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