恋に仕事に大撃沈の私。「引きずってんじゃねぇよ」って慰めてくれた先輩は強引に……。
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恋に仕事に大撃沈の私。「引きずってんじゃねぇよ」って慰めてくれた先輩は強引に……。 (ページ 1)
「営業課の伊織さんって最近彼氏と別れたじゃん? あれって結局浮気が原因らしいよ」
いつも通りに出勤し、いつも通りお昼を食べ、いつも通り残業に励む私――伊織は、その会話を女子トイレで聞いた。
話をしている人物はなんとなく特定できる。
私が個室にいるなんて思いもよらないのだろう。
二人の会話は続く。
「ぶっちゃけ伊織さんって同僚としてはいい人だけれど、なんか男みたいじゃん?」
「あー……営業課って男ばっかりだから自然とそうなっちゃうのかな」
「秘書課ってみんな女子力高めじゃん? 伊織さんの元カレがそっちに眼がいっちゃったのもわからなくはないって言うか……」
「でも、その話の流れだとウチらも気を付けなきゃだよねぇー」
しばらくしないうちに二人分の足音が去る。
そこでようやく私は個室から出ることができた。
洗面台にはファンデーションの粉が少々落ちている。
「そっか、今日金曜日だもんね……」
今日、ウチの会社では若手社員の飲み会があったはず。彼女達はそれに向かう前のお色直しをしていたのだろう。
一方で、鏡を見れば、そこにあるのは疲れ果てた女の顔。
「なんか思っていたより伊織って可愛くないよな」と元カレにフラれて、「あの企画のための書類は今日までと言ったはずだ!」と身に覚えのないことで上司に怒鳴られて……。
仕事が残っている私は、飲み会には「後から行けたら行く」とは言ったけれど、この調子じゃ無理そうだ。
先ほどの、同期の彼女達とはそこまで親しくはない。彼女達に悪気がないのは百も承知だけれど……。
「さすがに人伝で浮気を知るとかキッツ……」
なにか、よくわからない感情がこみ上げてきた。
「……戻ろう」
私はぐっと涙をこらえるとわざと天井を睨みながらトイレを後にする。
そのまま自分のデスクについて作業にかじりついた。
*
あと少しで業務が終わる、というときだった。
「お前、まだ残っていたのかよ」
不機嫌そのものの声が狭い部屋に響く。
びくっと背筋が凍る。私しかいない営業部のフロワに顔を出したのは菅原先輩だった。
「は、い……資料づくり終わらなくて……」
私の返事に、菅原先輩は眉をひそめる。
「その仕事、課長がやるべきなんじゃないのか」
「多分そう、ですね……」
私は菅原先輩が苦手だ。
他の女子社員に対するそれと、私への態度があからさまに違うから。
案の定、菅原先輩は嫌なものを見る眼で私を睨む。
「……わかっているならホイホイ引き受けてんじゃねぇよ。社会人なんだから断るときぐらいちゃんとしろっての」
舌打ちと同時に返されたのは元も子もない言葉。
「あはは……てか、菅原先輩は何で戻ってきたんですか?」
なんとなく居たたまれなくて、話題をふる。
「……お前がいつまでたっても来ないから様子を見に来たんだよ。仮にも女一人で会社に残るのは防犯上よくはないだろ」
あぁ、などほど。と、納得しつつ、仮にも、という言葉が刺さる。
「すぐ上がります。先輩、みんなと合流してください。そろそろ二次会に流れる時間ですよね?」
「……伊織はどうするんだ」
「今日はやめておきます。残業も続いていたからちょっと疲れが……幹事には私から連絡入れるので、来てもらったのにすみません」
ふと、あぁ私のこういうところが、元カレにフラれる原因だったんだな、と思った。
私は『営業部』というバリバリ働く課も自ら選んだ。
女子高時代は『王子』とあだ名がつくぐらいに男勝りだと思う。
仕事ばっかりやって、女子力が低下しまくれば、そりゃ男にもフラれるか、と。
妙に納得した自分がいた。
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