八年ぶりに再会した塾の先生。大人になった私を見てほしいと、先生を受け入れてしまう私。 (ページ 2)
祥平が選んだのは、車で十分ほど走った場所にあるイタリアンレストランだった。地元のフリーペーパーに掲載されているお店で紗香も名前は知っていたが、利用は初めてだ。
予約もなく入れるカジュアルなレストランだが、天井が高く開放感があり、照明も少し暗めでカップルが多い。
「紗香は飲む気分だったんだろ?」
「はい、でも先生が運転で飲めないし、私も飲みません」
「遠慮するなよ」
祥平はパスタ、ピザ、サラダを適当に頼むと、ビールも一緒に注文してくれた。
「もう先生って呼ぶなよ。俺はもう先生じゃないんだから」
「無理ですよ。私にとっては先生は先生だし」
「ま、いいけどさ」
「先生はご結婚されたんですか?」
「いや、独身のまま三十五だよ」
紗香の会社にも祥平と同年代の男性はたくさんいるが、祥平はとても若く見える。もちろん贔屓目はあるが、シャツの上からでもわかる嫌味のない筋肉からして色々とケアをしているのだと思った。
「紗香はどうなんだよ、そろそろ結婚願望が出てきたりしたか?」
「全くです。仕事もやっと慣れてきたばかりだし、恋愛に疲れたこともあって」
「そうなの?」
大人になってからの再会は、やはりお互いの恋愛事情の話題になるのだろう。そこから紗香は四年間付き合っていた元カレの話を祥平に話していた。
お互いの就職が決まり忙しさを理由に会うことが減ったこと、最後は彼の方が別れたくないと大騒ぎだったこと、そんな話を祥平は絶妙なタイミングで相槌を打ちながら聞いている。
食事も美味しく雰囲気もいいせいで、紗香のビールも二杯目が空になろうとしていた。
「結構、お酒強いんだな」
「すみません、なんか先生と会えたことが嬉しくてつい…」
「俺も嬉しいよ、覚えてくれていて」
祥平も、自分の過去について少しだけ紗香に話したのだが、お酒と憧れていた人が目の前にいる状況に紗香は舞い上がり、彼女はいないということしか印象に残っていない。
きっと先生のことだから女性は不自由しないのだろうとなと、軽く話を聞いていた。
「ラストオーダーです」
店員が各テーブルに閉店時間を確認し始めた。気づけば十時を過ぎている。
「出ようか」
「はい」
祥平が会計を済ませ、ドアを開けると、紗香がふらつかないように腰にそっと手を回した。外の風は心地よいのに、さりげない祥平のエスコートが体温を上げる。
祥平が紗香を見つめる時間が気のせいか増えている気がした。年上男性との経験がない紗香には、祥平の振舞はとても紳士的で居心地が良い。
車に乗ると、さらに紗香は良平の距離が近づいたと顕著に感じた。
嫌な気は全くしない。心臓の高鳴りがはっきりと自分でもわかるほど、男と女の空気を感じたからだ。紗香は、この再会を無駄にしたくないと思った。
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