プールで彼が鬼コーチに豹変!サウナでハニートラップを仕掛けてみたら… (ページ 2)
拓海がプールの反対側の端から水に入り、泳ぎ始める。
ほとんど水しぶきを立てずに、肘を鋭角に水から抜いて、ゆっくりなペースなのに、するすると水の中を進み、あっという間に25mを泳ぎ、隣のコースに進む。
あまりのフォームの美しさに、ストレッチを忘れてつい見とれてしまう。
せっかく来たんだし、私も泳ごうと思ってゴーグルとキャップをつけて、水に入った。
25mをクロールで泳いでみたら、たちまち息が上がって心臓がバクバクになる。
一応ランニングはしているのに、体力がなさすぎる。
しばらく休んでから、平泳ぎで25m。
そんなに苦しくはならなかった。
けっこう泳ぐのって楽しいかも。
そんな感じでクロールと平泳ぎを交互に休みを入れながら泳いで、プールを何往復かしたところで、拓海に声をかけられた。
「由季、調子はどう?」
「うん、けっこう楽しい。拓海はあっちでもっと泳いでていいよ」
せっかく泳ぎに来たのに、気を使ってもらって申し訳ない気分になる。
「ああ、もう2km泳いだから大丈夫」
「うそっ。まだ来て30分ぐらいしか経ってないのに」
「いやそれ普通だから」
ちょっと、普通のレベルが違いすぎるんですけど。
拓海が、飛び込み台の脇から軽い身のこなしで水の中に入ってくる。
「由季、クロールで一往復してみて」
それはちょっときつい、と思いながらもがんばって休まずに一往復した。
「まず息継ぎね、左右均等にスリーストロークに1回が基本。掻き終わったら肘を高く上げて水から抜くと体が自然に傾くでしょ。そこで、頭上げずにちょっと斜め後ろを振り返る感じで息継ぎしてみて。じゃ、それ気をつけながらまた一往復ね」
拓海に言われたことに気をつけてみたら、ちょっとは楽に進むようになった気もするけど、その分ひとつひとつの動作により体力を使う。息継ぎは、慣れない左でやってみたら溺れそうになったので、右だけに戻した。
「はああ…疲れた…」
「けっこう良くなってきた。まあ慣れだからね。じゃ、10分計ってるから、クロールで10分間の連続泳ね」
拓海の鬼っ。
と思ったけど、必死になって泳いだ。
最後のほうは泳いでいるのか溺れているのかわからない状態だった。
「由季、やればできるじゃん。力も抜けてきていい感じ。じゃ、次は平泳ぎね」
もうこれ以上のしごきは無理、絶対。
「ちょっと休ませて」
「甘いな。このくらいで音を上げるなんて」
この鬼コーチめ。
そうだ、いい考えが。
「水が冷たくて身体が冷えちゃって…寒いよう。ね、サウナであったまろ」
大げさに寒さを訴えてみた。
「そうだね、ちょっと体冷えてきたし」
今日は平日でプールも空いてるし、サウナに人はいない。
拓海にハニートラップを仕掛けて、さっさと家に帰りたくなるように仕向けるのだ。
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