母の秘密のノートに綴られた甘く淫らな愛のレッスン。僕には美しい婚約者がいて… (ページ 2)
家に着くと、母はまだ帰ってきていなかった。
病院で父と会ったので、デートしてから帰るということだった。
やれやれ。
両親は仲がいい。
もういい年なのに人目もはばからずにキスをするし、割と頻繁に性交渉がある。
僕も30を過ぎた大人なので、過剰に反応しているわけではないけれど、母の押し殺したような声が筒抜けなので、いやでも気づいてしまう。
母は、僕と一緒にいると年上の恋人に間違われるくらい、若く見える。
それに、父より歳が10歳下なので、いつまで経っても幼な妻なのだろう。
祖父と祖母も、そんな感じの歳の離れた仲の良い夫婦だった。
だから、そういう家系なのだと思う。
綾音から渡された雑誌を紙袋から出してみた。
1冊だけ不自然に厚いものがあり、開いてみると中に花柄の表紙のノートが挟まっている。
中の紙は薄茶色に変色していて、母の小さな字でびっしりと埋められている。
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×月×日
今日は、お義母さまとウェディングドレスの相談をするために、彼のお宅にお邪魔した。
彼の家は、山手線の内側にある戦災を逃れた古い日本家屋で、お庭もあってとても広い。
美大の油絵科に通っていた私は、父の上司から勧められたお見合いを断れず、とんとん拍子に卒業と同時に結婚することが決まった。
お義母さまは、とても美しい。
艶やかな黒髪を家にいるときも綺麗に夜会に巻いて、肌にも張りがあって、少女のようなほっそりとした体つきで、生活感というものがまるでない。
お義母さまが仕立てものの仕事に使っているという離れに通された。
お義母さまの作る凝ったデザインのドレスは、見とれてしまうほどの美しさだ。
持参した雑誌の切り抜きをもとにイメージを伝えると、お義母さまがスケッチブックにすいすいとデザイン画を描いていく。
「環さん、採寸をするから、下着だけになって」
お義母さまにそう言われて、私は着ていたワンピースを脱いだ。
「環さん、本当にスタイルが良くて綺麗ね」
お義母さまに褒められて、恥ずかしくて顔が熱くなる。
お義母さまの少し冷たくて小さな手が、私の体のあちらこちらにメジャーを巻きつける。
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