仏頂面で寡黙なバイト先の店長。雰囲気とは裏腹な手練手管に身も心も奪われて──。

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仏頂面で寡黙なバイト先の店長。雰囲気とは裏腹な手練手管に身も心も奪われて──。 (ページ 1)

美冬は勇気を振り絞って、勤務先の店長である影久を夕食に誘った。

影久は閉店作業中の手を止めないまま、「ああ」とひとこと。

断られることも覚悟でいた美冬は彼が迷う素振りもなく了承をくれたことに拍子抜けしてしまう。

「あ…ありがとうございます!」

そうこうして2人は評判のレストランで夕食を共にし、さらにバーで優雅な時を過ごした。

楽しい時間はあっという間に流れるもので、時刻はもう午後21時を過ぎようとしていた。

バーを出て駅までの道を2人並んで歩く。

アルコールで火照る体を夜風が心地よく冷ましてくれた。

「遅くまで付き合わせて悪いな」

腕の時計を見ながら影久が言う。

美冬はふるふると首を横に振った。

「それは私の台詞です。今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」

美冬の頬が染まっているのは酒のせいか彼のせいか。

きっと両方だ。

「あの、よければまた…」

美冬が言いかけた時、2人以外の声が後ろから聞こえてきた。

「あれ、美冬? …と、店長?」

振り返り確認すると、その声の主は美冬の同僚の男だった。

美冬はこの同僚が苦手だった。

職務中に必要のないボディタッチが多かったり、しつこく言い寄られたりしていた過去があったからだ。

気づいた影久が間に入ってくれて、現在はシフトが被らないように配慮してくれている。

「あー…そういうこと」

同僚はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。

「なーんか、やけに邪魔してくるなーって思ってたんすよ。そういうことねー」

絡みついてくるような口調はかすかに嫌悪感を抱かせる。

含みのある物言いだが、同僚が何を勘違いしているのか美冬にも理解できた。

そんな風に見られれば影久も迷惑だろうと思い、美冬が同僚に言い返そうとした時、

美冬の腰に影久の腕が添えられ、優しく抱き寄せられた。

影久の温もりを側で感じ、美冬の心臓は早鐘を打ちだす。

「え…あの…」

動揺する美冬とは正反対に、影久は余裕な表情に薄く笑みを浮かべた。

「“そういうこと”だ」

同僚はうろたえているようで言葉に詰まっている。

「わかったな? もうこいつにちょっかい出すな」

そう言うと影久は同僚の返事を待たずに美冬の手を引いて歩き出した。

しばらく無言のまま歩を進めていたが、ふいに立ち止まった影久は美冬に向き直った。

「もっとちゃんと言いたかったんだが…」

端正な顔に見つめられ、美冬は息が止まりそうになる。

「…好きだ」

彼の低い声は抵抗なく耳に滑りこんでくる。

アルコールのせいにするには苦しいほど顔が熱くなるのを感じ、美冬は手で口元を覆いながら言葉を返す。

「あの…わ、私も…」

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