「俺とセックスしませんか」と微笑む彼の目の奥が冷たくて (ページ 5)
「気が変わりました。入れない代わりに限界までしてあげます」
「は・・?いいっもう限界っまっやああっ」
突起を舌で捏ね回され、吸われて弄ぶ。
智哉は、有無を言わさないけれど私を乱暴には扱わなかった。
激しくされたら『痛いからやめて』って言おうと思ったのに。
あくまでも、こちらがその気になるまでひたすら待つ智哉に翻弄された。
待っている間、気が逸れない様に散らばった小さな快感をかき集める智哉は明らかに愉しんでいた。
熱が引く瞬間を与えてくれず、執拗に色んなところを刺激されて、時折意識が飛びそうになった。こんな感覚は今まで感じたことが無くて、恐怖さえ感じた。
「ふっあっあああっ」
抑える気もなくなった淫らな声が高く響くたびに、目を細めて智哉が私を眺める。
終わらない快感の波に揺らされてるうちに、大事にしがみついていた羞恥心やプライドがすっかり外されて素直に快感だけを追い求めていた。
もう、無理・・。体・・動かないや。
下半身がびくびくと痙攣を繰り返して、もう自分でもどうしようも出来ない。
早打ちする心臓のおかげでアルコールも完全に回った。目の前がぐるぐる回る。
「椿さん」
智哉が私の頬を両手で優しく包んで目を合わせるけれど、焦点が合わなくてぼんやりとその端正な顔を眺めた。
なに、ていうか。
あ、そういえば私失恋したんだっけ、忘れてたわ。
えー、自分でも引く。
結構長かったのに。
でも、もう今は何も考えられないや・・・。
ぼやぼやとした思考と脱力した体をそのままベッドに沈めた。
あれから2週間が過ぎた。
あの朝、セットした覚えのないスマホから目覚まし音が聞こえて目が覚めたら一人でベッドで寝ていた。
ガンガンと揺れる二日酔いの頭を抱えながら、部屋を見渡しても智哉はいなかった。
感心したのは、脱ぎ捨てた下着類はバスルームに、ワンピースはクローゼットにかけられていたこと。
1つだけ、気づいたことがあった。
鞄に入れていた煙草とジッポ。
その2つが忽然と無くなっていた。
そして、さっきスマホにメールが届いた。
『意地張らないで、いい加減取りに来てください』
それだけのメール。差出人ももちろんなく。
連絡先は・・、教えてないけど。
でも分かった。すぐに。
ていうか、意地張ってないし!
日が経つにつれて思い出すのは、行為の内容ではなく、一瞬だけ笑った智哉の顔。
マットな闇のような色の扉の前で立ち止まり、小さな溜め息をついた。そして、その扉に手をかけ押した。
「遅いですよ、待ちくたびれました。椿さん。」
智哉がカウンターの奥で笑った。変わらない冷たい目の奥を隠して。
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