好きなのに、向き合えなかったあの人とバスの中で再会して…
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好きなのに、向き合えなかったあの人とバスの中で再会して… (ページ 1)
「◯◯団地行き、発車致します。閉まるドアにご注意下さい。」
いつも通りの停留所。
いつも通りの駅前のビル街。
仕事帰りにバスの車窓から眺める景色は、安っぽいパチンコ屋のネオンに照らされて、疲れを一層重くする。
今は、憂鬱なこの景色も、昔は綺麗に見えていたっけ。
そんなことを思いながら、左手首の時計を眺める。
黒の時計。
私には少し大きいこの時計。
当たり前のこんな動作が、私の大切な日課だ。
高校時代、私には好きな人がいた。
滝内さん。
吹奏楽部でお世話になった部活のコーチ。
専門はホルンで、当時は指揮棒を振ってくれたこともあった。
生徒とコーチ、立場も全然違うし、まして年の差だって、一回り近くあった。
彼女がいるなんていう噂もあったし、当時の私が思いを伝えるなんて到底無理だった。
でも、そんな私も一つだけ、勇気を出してやったことがある。
高校を卒業したての時だった。
初めてもらったバイトのお給料で、滝内さんにプレゼントを買ったのだ。
黒の腕時計。
ここまで聞けば、綺麗なエピソードだが、ここには一つ問題があった。
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