再会してしまった彼と過ごす甘い痺れと虚無な痛み (ページ 2)
一年前も、そうだった。
週末、家に戻るはずの彼は、最終新幹線に乗り遅れた、ということにして、美里のもとへ来た。
美里のアパートで一夜を過ごし、東京へ戻る新幹線に乗るのは、翌日、土曜の朝。
そんな週末を、何度、繰り返しただろうか。
どんなに濃密な夜を過ごしても、土曜の朝になれば、彼は必ず遠く離れた家族のもとへ帰っていく。
徹にとって家庭は大切な戻るべき場所であり、自分もそれを壊すつもりなど毛頭なかった。
最初から終わりが見えている関係だからこそ、互いによけいなことを考えず、何も求めずに、続けられたのかもしれない。
彼の出向期間が終わり、支社を離れる日が来ても、動揺することなく、淡々と別れを受け入れることができたのだ。
自分の中に残ったのは、わずかに、小さな冷たい穴が空いたような感覚。
それを淋しさと呼ぶのか、虚しさと言うべきか。
その穴は、ふだんは忘れていても、なにかの拍子につきんと鋭く胸を刺し、けして癒えることはなかった。
だから、なのだろうか。
「雨、止んできたみたいだな」
一杯めのビールを飲み干し、外の様子を確認する彼に、こう言ってしまったのは。
「また、私の部屋……来る?」
駅から歩いて十五分ほどの、閑静な住宅地に、美里の暮らす部屋はある。
1DKにユニットバス、狭いアパートは、女性が一人暮らしをするには十分な広さだ。
駅から歩いてくるあいだ、ほとんど会話らしいものはなかった。
一年前もそうだった。黙っていても分かり合える、というのは、思い上がりだろうか。
部屋に入ると、まず徹がシャワーを浴びた。
そのあとに美里。熱いシャワーが、雨あがりの夜風で冷えた体を温めてくれる。
バスルームを出てくると、彼の声がぼそぼそと聞こえてきた。
「うん……、ごめん、新幹線に乗り遅れて――。うん、うん、明日、朝イチで帰るから……」
携帯で、東京の家族に連絡しているのだろう。
それもまた、一年前と同じだ。
――本当は、もう、こんなことしちゃ、いけないのに。
一年前、ふたりは関係を終わりにした。
ふたたび同じことを繰り返す理由なんか、ない。
してはいけないはずなのに。
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