世界のセレブと肩を並べる青年実業家から、夜桜の下、怖いほどに求められて (ページ 2)

「……夢みたい」

「よかった」

「え?」

光輝は私の手の甲に、口づけた。

「あなたが誰のものにもならないとわかって」

そのまま、ぐいっと抱きしめられる。

「僕のものにもなってはくれないのでしょうが、今夜だけ、嘘をついてくれませんか」

「嘘って、なにを?」

「僕のことを愛していると言ってもらえませんか」

光輝が言っていることの意味がわからず、私は光輝の胸に手をついて腕の中から逃れようとした。

「今夜のパーティーは、あなたのために開いたんです、桜子」

「なにを言ってるんですか?」

「一目ぼれだった。大学の門を出て来たあなたは、桜の花のように艶やかで儚げだった。どうにかして二人きりになりたかった。だが、僕には自由な時間というものがない。だから、あなたに来てもらうしかなかった」

光輝は私を離すまいと腕に力を込める。

「あなたが好きです」

「そんな、私の外見しか知らないくせに……」

「あなたのことなら、よく知っています。住所も、家族構成も、学校の成績も」

驚いて顔を上げると、光輝の昏い目と目が合った。

「……調べたの?」

この人は何をするかわからない人物だと思って、急に恐ろしくなった。

「僕にできないことは、ほとんどないんです。知りたいことはなんでも知ることができる。したいことはなんでもできる。でも、本当に望んでいることは叶えられない」

悲し気に言う光輝は、私から目をそらさない。

「桜子と二人だけの世界に行きたい。そのためなら、僕はなにもかも捨てられる。けれど、あなたは違う。僕を邪魔なものだとしか思わない。あなたのことを調べて、それがよくわかりました」

「わかったなら、手を離して」

「だめです。これから先も桜子は何人もの男性から求愛される。そのうちに最愛の人物と出会ってしまうかもしれない。そうなったとしても、僕のことを忘れないでいてほしい。僕が桜子の最初の男になりたい」

「最初のって……」

「桜子が男性と付き合ったことがないことも、ちゃんと知っている」

小馬鹿にしたような言い方に、カチンときた。

「あなたの調査機関には不備が多いみたいですね。私にだって、男性経験くらいあります」

「嘘ばっかり。自分が経験不足だということを知られるのが怖いんですね」

カッと頭に血が上った。

「そんなことはありません!」

「本当に?男性はこんなことをするよ」

そう言うと、光輝は私の首筋に顔をうずめる。

首から耳の下までをべろりと舐め上げられて、ぞわぞわと変な感覚に襲われた。

「うっ、いや!」

「おや、やっぱり怖い?」

「怖くなんか……」

「ないですか?」

光輝の手が私の腰を撫でまわす。

着物の上からでもわかる、力強く荒々しい動きに恐怖心が湧く。

だが、舐められたくない。

「怖くなんてないわ、好きにすればいい!」

その言葉を待っていたのか、光輝は私を抱きすくめると、唇を重ねた。

強く吸われて、思わず口を開いてしまう。

光輝の舌が私の口の中に入って来た。

ぬるりとした感触に、鳥肌が立つ。

キスって、こんなに生々しいものだったのか。

光輝の手が私の着物を割り、太腿に触れた。

冷たい掌の感触に、びくりと身がすくむ。

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