世界のセレブと肩を並べる青年実業家から、夜桜の下、怖いほどに求められて
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世界のセレブと肩を並べる青年実業家から、夜桜の下、怖いほどに求められて (ページ 1)
大学の学費を賄うためにコンパニオンとして、さまざまなパーティーや会合の場で働いたことがあるが、今夜ほどセレブが集まった会を見たことがない。
日本人は主催者側だけで、招待客は皆、外国の有名人だ。
彼らのために飲み物を運ぶコンパニオンは皆、おそろいの薄緑色の和服で仕事をしている。
面接を受けた私は、語学力と日舞で身に着けた和服での動きを買われて雇われた。
ほかのコンパニオンたちは、ここで海外の実力者と知り合って玉の輿に乗れるかもしれないとふざけ合っていたが、私はそんな話に、うんざりしていた。
自分を結婚などという古臭い価値観でしか認められない女になるつもりはない。
私は一人きりで世界と向き合うのだ。
その思いで会場を歩き回り、そつなく仕事をこなしていたつもりだった。
けれど、開宴から一時間もしないうちに、会場から外された。
何が主催者の気に食わなかったのか、見当もつかない。
ショックで控え室の椅子にへたりこんで、両手で頭を抱えた。
そこにノックの音がして、扉が開いた。
「桜子くん」
顔を上げると、タキシード姿の青年が部屋に入って来た。
「え!」
驚きすぎて口が開いた。
この会の主催者である彼は、若くして巨大コンツェルン、鷺ノ宮グループのトップを掴み取った人物だ。
会場で見かけはしたが、直接話すことになるとは思っていなかった。
「ああ、座ったままで大丈夫ですよ。こちらに来ていただいたのは、少し話があったからです」
そういうと、タキシード姿の光輝は扉を閉めて、私の側の椅子に腰かけた。
「数人から申し入れがあったので、桜子くんの意向を伺いたいのです」
「申し入れですか?」
「ええ。桜子くんにパートナーになってほしいという相談です。まあ、端的に言うと、縁談です」
驚きすぎて動きが止まってしまった。
光輝は人当たりのよい笑みを浮かべた。
「皆さん、世界トップレベルの技能を持つ方々です。悪い話ではないと思います。もし気になるようでしたら、個別にご紹介しますが……」
「いえ、お断りします」
「それは、どうして?」
「私は自分の力で世界に出ていくつもりです。それには、パートナーは重荷になるだけだからです」
「確かに、桜子くんの仕事ぶりを見ていると、そう言うだけの素質はあるように思います。ですが、世界に出るための足掛かりはあるのですか?」
「それは、まだ。ですが、大学を卒業するまでには見つけます」
「手っ取り早く、ファーストレディーになってから、手腕を振るうという手もあるのでは?」
「私は自分の道を一から切り開きたいんです。誰の助けもいりません」
光輝が無言で立ち上がった。
不興を買ったとしてもかまわない、どう思われようと、私は私の考えを貫くだけだ。
「裏庭に行きませんか」
「え?」
光輝は有無を言わさず私の手を取ると、ぐいっと引っ張って立たせた。
いったい、何が起きているのかわからぬまま、私は黙ってついていく。
屋敷の表では華やかな饗宴が開かれているが、奥まったこの廊下はひんやりと寒々しい。
裏庭に通じる扉は、荘厳な作りのこの屋敷に似つかわしくない、防火扉か何かかと思ってしまうほどの無骨さだ。
光輝はそんな扉を片手で押し開けた。
ざあっと風が吹き、桜の花びらが舞い上がり、眼前を薄紅色に染めた。
そこには一本の桜の大木があった。
見たこともないほど多くの花をつけ、まるで花束のように桜が密集している。
見惚れて動けなくなった私の背に手を回して、光輝がそっと力を込めた。
押されるままに庭に出る。
灯火もなく真っ暗な庭に月明かりが差し、桜は妖艶な美しさを見せていた。
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