何分たっただろうか、詰めていた息を吐き出し、ふと視線をあげると、今度は自分をじっと見つめる、指の主の瞳が朱理を捕らえた。
(あ・・・)
慌てて、視線を逸らせた。
が、更にそのまま自分をじっと見つめている視線の気配を感じ、朱理はにわかに狼狽する。
すると、すっと彼が立ち上がる気配を感じた。
朱理が体をこわばらせる。
が、そのまま彼は朱理の横をゆっくり通り過ぎた。もしかすると、殊更ゆっくりと。
彼が通り過ぎ、朱理がふっと息を緩めた瞬間、はらり、と彼女の前に白いものが舞った。
(・・・?)
つまみあげてみるとそこには、
入り口を出て、左。 貴史
と、だけ、書いてあった。
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