せっかくの旅館泊まりなのに手を出してくれない、年上彼氏を精一杯『お誘い』する話 (ページ 2)
コチコチと古時計がぎこちなく動いている。規則的な音に紛れて聞こえてきたのは――
「…ふぅ…はぁ…」
「…?」
その小さなうめき声は、寝息にしてはずいぶん息苦しそうで。不審に思って隣を見れば、布団の山が上下に揺れていた。具合でも悪いのだろうかと心配になって、声をかける。
「アオイさん…? 大丈夫ですか…?」
そう尋ねれば、ビクっと小さく跳ねてから動きが止まった。アオイさんは口もとを隠して、頑なに布団から出てこようとしない。
「あー…ごめんね。僕ほんと…もういい大人なのに…」
モゴモゴと気まずそうに、アオイさんは目を泳がせた。彼の布団に手をあてがうと、妙に全身から熱っぽさを感じる。
「…ミドリが、あんなこと言うからだよ」
仄暗い部屋の中、アオイさんの顔が別人のように色っぽく見えて、内心ドキリとした。戸惑っているうちに、あっという間に布団の中へ引き込まれる。
アオイさんに背後から抱きしめられる形で、二人でしばらく布団にくるまっていると、ふいに腰あたりに固いものが当たった。はぁ、と私の耳元に、アオイさんの熱のこもった息がかかる。
「…アオイさん、あの…えっと」
「僕、結構頑張って耐えてたんだけど…ミドリはまだ経験浅いだろうから、怖がらせたり無理させたくなくて…」
でも、とアオイさんは続ける。
「大好きで可愛いミドリからあんな風に誘ってもらっちゃったら、もう我慢できないよ…」
切ない声音で、アオイさんは私を見つめてそう言った。私の理想でアオイさんを追い込んでしまったのが、申し訳なかった。せめてもの償いにと、私はアオイさんに向き合う。
「アオイさん、私…アオイさんとお付き合いできて本当に幸せで…だから、今日も夢みたいで」
上手く話がまとまらない。それでも、穏やかにアオイさんは「うん」と相槌を打ってくれる。そんな彼が、そんな彼だからこそ、私は──
「アオイさんと…もっと親密になりたい、です──んむっ…」
言葉尻をはっきり発音し終える前に、唇を奪われた。
今までのような余裕のある軽いものではなく、半ば強引で、こちらの本能までも刺激してくるようなキスだった。
「──もう、止められないからね」
そう言いながら私に覆い被さるアオイさんの瞳は、色欲に濡れ揺らめいていた。
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