温和な彼が実は経験豊富という噂を耳にして、焦りと嫉妬のキャンディキスを仕掛ける話 (ページ 2)

 

 結果、友人の全面協力によりカズヤを呼び出すことに成功した。私は酔って酷く眠そうなフリをしつつも、内心はどこかほっとしていた。
 

 まだ私のことを大事に思ってくれてるのかも――縋るような安堵に、体内の確かにあるアルコールが回る。なんだか本当に眠くなってきた。

 
 私の代わりに会計を済ませに行ったカズヤを見届ける。あとでお金返さなきゃな…と気怠い頭でぼんやり考えていると、友人がそっと私に悪知恵を吹き込んできた。
 

「ね、今日サナエから誘ってみなよ――普段なら絶対しないようなさ、えっちなやつ」
 

 そんなの無理だよ、と反論する前にカズヤが戻って来た。
 

「レジで飴もらったんだ。サナエの好きな味があったから」
 

 こちらの気も知らないで、呑気にニコニコしながら個包装の飴を差し出すカズヤに、思わず力が抜ける。
 決めた。彼からもらったこの飴で今晩は――
 

 

*****

 

「…カズヤには、こんなキスどうってことないでしょ?」
 

 乱れた横髪を耳に掛け直し、私はカズヤの唇をなぞる。私を膝に乗せたカズヤは、俯いたまま静かに口に残った飴を舐め続けていた。

「どうってことないわけない…」

 ぼそりと呟やかれた声は、心なしかいつもより低い。怒らせてしまったのかも、それとも引かれた――? 不安が膨らみかけたその瞬間、私の視界はぐるりと反転した。

「…まったく、誰の入れ知恵なのかな」

 掻き上げられた前髪の下の目は、普段の温和な彼に似つかわしくない、冷ややかな目をしている。

「…こんなことしたらダメでしょ? サナエはずっと純粋なままでいいのに」

 サナエが悪いんだからね、という彼の言葉が耳に届く直前に、私の唇は一瞬にして奪われた。あまりの勢いに、ソファがギシリと鈍い音を立ててわずかにズレる。

 息をする間も与えない、長く深いキス。
 

「カズヤ、待って、一旦話そ――」

 私の静止を遮るようにして、再びねっとりと口いっぱいに舌を絡められる。逃がさないと言わんばかりに固く握られた両手に、互いの汗がじっとりと滲んだ。

「も、カズヤ…待って、ほんとに待って」

「…なに?」

「カズヤはどうしてそんなに怒ってるの…? むしろ私の方が、最近ずっと…ッ」

 ここ数日の寂しさと不安が、胸の中で一気に膨れ上がる。いざ声に出そうとすると言葉が詰まり、勝手に涙が溢れてきた。

 さすがに目の前で泣き出しては、カズヤも頭が冷えたらしい。ふわりと風が身を包んだかと思えば、全身に温もりを感じる。彼が抱きしめてくれたのだと気づくまでに、そう時間はかからなかった。

「…いきなり押さえつけるようなことしてごめん。…もしかして、お友達から『噂』聞いたのかな?」
 

 涙も拭わずこくりと頷けば、そういうことだったのか、とカズヤは一人で納得していた。その光景がなんとなく気に入らなくて、私はあからさまにむすっと拗ねてみせる。

「…ふふ、拗ねた顔も可愛い」

「馬鹿にしないで、早く説明して」

 

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