冷たい麦茶で始まる二人、エアコンでも冷め切らない熱く甘い夜 (ページ 3)
「あっ待って、ゴムがない」
「えっ?」
「鞄の中だ、取ってくるから待ってて」
慌てて立ち上がった直哉の目は、自分も気持ちよくなりたくて仕方がないっていう切羽詰まった色をしている。それくらいなら私にも分かるから、準備を怠った彼を責めることなく静かに頷いて、待ってるよと伝えた。
彼は私の口に触れるだけのキスをしてからベッドを下りて、足早にドアの方へと向かった。けれど。
「いっ、痛あ!」
「えっ!?」
ふにゃふにゃ、になっていた私の体が一気に覚醒する。どうしたの、とベッドから飛び起きれば、彼はドアの前でうずくまっていた。電気を明るくすれば、傍に小さな蓋が転がっているのが見える。私が落としたエアコンのリモコン、あれの蓋を踏みつけてしまったみたい。
「わ、わわっ! ごめんね直哉、私が落としたせいで!」
「い、いや大丈夫、平気平気」
「平気な声じゃなかったよ!? 痛かったでしょう」
両手を取って起き上がらせて、ベッドへと戻って足を確認する。赤くなってはいるけれど血は出ていないようで一先ず安心する。けれども急なハプニングのせいで、時間をかけて丁寧に盛り上げていった互いの熱はすっかり冷めてしまっていた。明日も仕事で、そう長く一緒にはいられない。これはもしかしたら、今日は本番を迎えることなくおしまいかもしれない。
こんなことで怒る直哉ではないと分かっているけれど、それでも申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
「本当にごめんね」
「ははっ、大丈夫だってば。大丈夫だからさ、だから」
だから、の声をわざとらしく低くして、直哉は立ち上がった。どうしたのだろう、と少しだけ不安になってしまう。顔に出ていたらしく、直哉は安心させるように優しく微笑んで、腰を曲げて私の目線に顔を合わせてくれた。そして耳元に口を寄せて、ちょっとだけ涼しくなってしまった息を弾ませて、こんなことを囁いてくれる。
「ゴム取ってきてから、また熱くなり直そうね」
どうやら今日中にもう一度熱くなれそうだ。
コメント (0)