寒くなるとやってくる彼。寒がりなくせに薄着な奴はぬくもりをもとめて布団の中に。

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寒くなるとやってくる彼。寒がりなくせに薄着な奴はぬくもりをもとめて布団の中に。 (ページ 1)

今年は例年に比べ、冬の気温が低いらしい。珍しく雪がちらつく。

寒空の下、Tシャツとジーパンだけなんて、正気とは思えない格好で彼、瑞己はぼんやりと柵にもたれていた。

もともと厚着をしないタイプであったけれど、今日は一段とひどい。

「上着は?」

「さあ」

寒がりなくせにちょっと抜けている彼は、上着をどこかに忘れても大分時間がたってから気付く。

「部屋の鍵は?」

「持ってる。芽衣、そろそろ帰るころかな、って」

そう言われたら、何も言えない。すっかり冷え込んでしまっているようで、扉の鍵を開けても、かたまって動く気配がない。

「あがって」

言いながら服の裾を引っ張った。たまたま触れた指先が痛いほどに冷たい。いったいどれだけ、この場所に立っていたのだろう。よくも周りの住人から通報されなかったものだ。のろのろと引っ張られるがままに動く彼を浴室に案内し、服を脱がせてお湯をかけた。あったまってきたらそのうち自分で動き出すだろう。散らかったズボンから財布と携帯を取り出し、他は全部洗濯機に放り込んだ。浴室で動いている気配。厚着をしないくせに気温が下がると動きが極端に鈍るなんて、どんな変温動物だ。

「蛇か。冬眠前の蛇か。」

話す相手がいないのでぶつぶつと独り言。脱衣かごに適当なスエットとタオルを放り込んで、

自分の着替えと二人分の夕食の支度をする。といっても、本日は昨日のカレーをそのまま温めるだけ。ちょうど2杯分残っていた。

「いいにおい」

シャワーはなんとか終わったらしい。髪もちゃんと拭いたようでちょっと評価する。においを察知しつつぼんやり部屋の入り口で立っている彼。

「瑞己さん、こたつに」

「・・・ん」

この変温動物は私の彼氏だ。私より2つ上の立派な大学生・・・のはず。同じ大学に通ってはいるけどめったに会わない。なのに、噂だけは聞く。吊り上がった細目のせいか、やくざとつながりがあるだの、危ない薬をばらまいているだの、変な噂が多い。こたつでぬくぬくしている彼の様子を見るに、そんな気力があるようにも見えない。噂というものはなんて不確かな。とか言いつつ、私も最初は目つきが悪くて背の高い彼に怯えまくり、いっさい関係性を構築しなかった。大学入学をきっかけに一人暮らしをはじめたアパートにこうして彼がふらりとやってくるなんて、考えもしなかった。

こうなったきっかけは、大したことじゃない。たまたま雪が降った夜、傘もささずに、鍵を忘れて途方にくれていた先輩を部屋にあげただけだ。まさか、こんなに懐く?とは思っていなかった。いつのまにか部屋に何度も来るようになって、いつのまにか居心地が良くて、いつのまにか私が好きになって、気が付けば付き合っている関係になった。付き合っている、と、思う。あまり言葉に出して確認はできていないけど。

「瑞己さん、カレーでいい?」

「・・・俺、食べていいの?」

「嫌いじゃないならどうぞ」

もぞもぞとスプーンを手に取り、食べ始めた。前触れもなくやってきては、苦学生の食材を平らげて帰っていく瑞己。幸い好き嫌いはないようで、出したものに文句を言われたことはない。お互いに夕食を終え、私は一人で自分の部屋で布団に入る。彼はリビングでこたつか、ソファにいるだろう。布団は一応、渡している。なのに。

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