恋人だった人の友達だった彼。これまでに私が知らなかった愛の形って…?
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恋人だった人の友達だった彼。これまでに私が知らなかった愛の形って…? (ページ 1)
部屋の片付けをしながら、また、それを捨てられなかった。
10年も持っているその名刺は、当時、付き合っていた男性の友達のものだ。
当時、私は21歳の学生だった。
その時既に、彼らは30代半ばだったと記憶している。
付き合っていた人の連絡先はもう全部削除したし、今はどこで何をしているのかも分からない。
でも、何故か、この名刺だけは捨てられなかった。
突然電話して、迷惑がられるのもいやだったので、メールしてみようと思い立った。
パソコンに向かい、メールソフトを立ち上げる。
名刺に記されたアドレスを入力して、本文を打ってゆく。
ご無沙汰しています、から始めて、自分の名前、近況を簡単に書いて読み返し、何か所か訂正して、送信した。
送信エラーが出なかったところを見ると、どうやらまだ使われているらしい。
ドメインからして、捨てたら済むフリーアドレスではない。
私は毎日、夜にメールチェックしている。
翌日には、もう返信が来ていた。
『ご連絡ありがとうございます。
貴女からのメール、大変嬉しく拝読しました。
僕を覚えていてくださったのですね。
僕は、10年間、貴女のことを忘れられませんでした。』
その文章によって、当時の記憶がよみがえってくる。
恋人との間が、ぎすぎすし始めていた。
彼の嫉妬心と独占欲の強さに、私は疲れ果てていた。
別れを切り出しても、別れないと言って聞かなかった。
そんなある日、ひとり住まいしていた大学近くのアパートを訪ねて来たのが、修二さんだった。
何故私の住まいを知っているのかとドア越しに尋ねると、彼に聞いてきたと言う。
でも、いくら知らない人ではなくても、中に入ってもらうことは出来なかった。
恋人の嫉妬心を刺激したくなかったからだ。
結局、玄関で用事を済ませるからと言われ、ドアチェーンを外した。
外では人の耳があるからと言われ、私もそれがいやだったからだ。
「こんな夜中に…どうなさったんですか」
「別に、何も…。ただ、瑞希さんのことが心配だったから」
修二さんは言った。
「彼の病的な嫉妬心や独占欲は、昔からよく知ってる。瑞希さんも、苦労してると思う」
その言葉を聞いた瞬間、私の目からは涙が溢れていた。
思いやりに満ちた言葉をかけられるのは、久し振りだった。
泣き出した私を、修二さんは黙って抱きしめて、髪をなでてくれた。
嗚咽が修二さんの胸でくぐもった声になる。
ひとしきり泣いて腫れた私の目から涙を拭い、修二さんはこう言ってくれた。
「君が彼の恋人だっていうことは、分かってる。でも、僕は君が好きだ」
好きだからこそ、気遣ってくれる…。
その気持ちが嬉しくて、私は修二さんの胸にすがり付いて、また泣きじゃくった。
…私の中で、修二さんに対する何らかの気持ちが芽生えたとすれば、この時だったかもしれない。
泣き疲れてぼんやりしていると、修二さんはそっと、私の唇にキスした。
恋人のそれとは違う、優しいキスだった。
この2年後、恋人とは、泥仕合を演じた挙句に、別れることが出来た。
その間、修二さんは、影となって恋人の暴走を抑えてくれたようだった。
メールの続きを見て、私は過去から現実に引き戻された。
『貴女にお会いして、もう1度お話したいです。
僕の住まいは、10年前と変わっていません。
よろしければ、来週の土曜日、来てください。』
返信は、それだけだった。
数日、悩んだ。
その上で、指定された日に、修二さんを訪ねる決意をした。
午後1時ちょうどにインターホンを鳴らすと、驚きと嬉しさが入り混じった表情で、修二さんが出迎えてくれた。
散らかしているけれど、と言いながらも招き入れ、お茶をいれてくれた。
「…来てくれないと思ってたよ」
自分で決めたことだったけれど、何故来たのかは、自分でも分からなかった。
修二さんの言葉に、ほんの少し、微笑むだけが精いっぱいだった。
彼もほんのりと微笑んでくれた。
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