真夜中の温室で罪深い逢瀬 孤独な若奥様の秘密の恋人は、夫の異母弟 (ページ 4)

 ほうっとひとつ吐息をついて、芙由子はのろのろと身を起こした。全身が気怠く、下肢に力が入らない。

 それでもどうにか立ち上がり、浴衣を着て帯をゆるく締めなおす。

「もう帰ってしまうの?」

 久弥はまだ、シャツを肩に羽織っただけの半裸だ。

「仕方ないわ。あんまり長く部屋を空けてると、女中に気づかれるかもしれないし」

 三つ編みはすっかり乱れてしまったので、手直しはあきらめてほどいてしまう。

 温室の硝子の扉を開けると、とたんに身がすくむほど冷たい夜風が吹き込んでくる。

「待って」

 長い腕が伸び、芙由子を後ろから抱きしめる。まるで縋り付くみたいに。

「待って、もう少しだけ、一緒にいたい」

「だめよ」

 本当にこれ以上はもう、危険すぎる。

 もしこの関係が露見したら、夫は即座に自分と彼とをこの屋敷から叩き出すだろう。

 そうなったら、ふたりとも、行く場所も、生きていくすべもない。

 愛とか恋とか、そんな綺麗な言葉で語れるものじゃない。それはお互い、わかっている。

 でも、このつながりがなかったら、きっとふたりとも、淋しくて苦しくて、生きていけない。

 一日でも長く、この秘密の関係を続けていくために。

「今夜は、ここまでよ」

 自分の体に回された彼の手を、そっと外した。

「また、明日ね」

「明日……」

「待っていて、くれるでしょう?」

 ここで――この、濃密な花の香に満ちた、小さな温室の中で。

「――うん」

 彼は、小さな子供のようにうなずいた。

「来て、くれるよね。必ず」

「ええ、必ず」

 最後にもう一度、軽く触れ合うだけのくちづけを交わして、芙由子は温室を出た。

-FIN-

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