真夜中の温室で罪深い逢瀬 孤独な若奥様の秘密の恋人は、夫の異母弟 (ページ 2)
「……やあ。来てくれたんですね」
南国の花々のむせ返るほど甘く濃密な香りとともに、低い、優しい声が、芙由子を迎えた。
「待っていてくれたの?」
「ええ」
白いシャツに黒繻子のベスト、シンプルな洋装に身を包んだ、背の高い青年がそこにはいた。
「今夜はもう、来てくれないのかと思った」
少し甘えるような言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「そんなにわたしに会いたかったの?」
「それを僕に言わせたいんですか? 意地悪だな」
青年は後ろから包み込むように、芙由子を抱きしめた。ほどいた黒髪に顔をおしあて、わずかに息を吸い込む。
「冷たい……。外、そんなに寒いんですか?」
髪をかきあげる彼の指からは、甘い香りがする。この温室に満ちる花の香が、彼の全身に染みついているみたいだ。
「ええ。真夜中だもの」
彼の腕の中で、芙由子はそっと向きを変えた。彼の顔をまっすぐに見上げ、そのほほを両手で包み込む。
若い肌はなめらかで張りがあり、夫のかさついた手触りとはまったく違う。この手になじみ、離すのが惜しい。
「だから、久弥さん。あなたがあたためて」
彼は、夫の異母弟だ。夫の亡き父が晩年、若い女中に産ませた子で、現在は屋敷全体を管理する家令職を務めている。
が、それも名前だけだ。屋敷の実務は古参の女中頭――彼女も昔から夫の「お手付き」だ――が取り仕切っており、久弥は口出しすることができない。
夫は、親子ほども年齢の離れた異母弟を認めず、財閥の中枢から締め出し、こうして屋敷の中でなかば飼い殺しのような状態にしているのだった。
この広い屋敷の中で、することもなく、ひとりぽっち。
良く似た状況に置かれたふたりが、互いに近づき、手を取り合うまで、さほど時間はかからなかった。
――そうよ、私は置物や人形じゃない。目も耳も、もの言う口も、孤独や悔しさを感じる心も、強い腕で抱きしめられたいと願う熱い体も、持っている。
色とりどりの花の下に置かれた、藤の椅子。南国気分を盛り上げるその椅子に、芙由子は座っていた。
浴衣ははだけられ、肩も胸もあらわになっている。薄紅色に上気した肌、大きく広げられた両脚。
そこに、久弥がくちづけていた。
「あっ、は、ふぅ……っ」
潤んだ秘花をなぞるように、熱い舌が這う。肉のひだを指先でかきわけ、その奥にひっそりと息づく快楽の芯を探り出す。
「あ、あ、そこ――あぁ……っ!」
こみ上げてくる快感に、芙由子は身をよじった。
ぴちゃ、ぴちゃ、と、猫が水を飲むような小さな音が響く。彼の肩に乗せた片足が、びくっ、びくっと淫らに跳ねる。
「ああ、い、いい……っ。いい、そこ、もっと……」
白い体がのけぞった。
もし夫がこの姿を観たら、何と言うだろう。金で買った人形程度にしか思っていなかった妻が、本当は熱い血も肉も持つ艶めかしい女なのだと知ったら。
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