好きなのは私だけ…じゃなかったの!?嘘の理由で別れようとしたら突然拘束されて…!

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好きなのは私だけ…じゃなかったの!?嘘の理由で別れようとしたら突然拘束されて…! (ページ 1)

とびきりの恋をした。

 口数の多い人でも、感情表現の豊かな人でもなかったけれど、稀に見せる穏やかな笑顔に、心の臓を呑み込まれてしまったのだ。

 だから必死に行動した。
 それまであまり関わりはなかったけれど、勇気を出して連絡先を訊いて、メッセージのやりとりをして、何度かデートに誘って…告白、して。

 私の態度が余程露骨だったのだろう。クロガネくんは私の「好きです付き合ってください」という至極ベーシックな告白に特に驚いた様子も見せず、少し黙って、それから「ああ」とだけ言って頷いた。
 だからあの日から私たちは、恋人同士になったのである。

 ──けれど、付き合っても私たちの間には何の変化もなかった。

 メッセージを送るのも、電話をかけるのも、会話を始めるのも、デートに誘うのも、情事に誘うのも、全部私から。

 別にそれはいい。
 全部私が好きでやってることだし、そういうことを向こうからしてほしいと口に出したこともない。
 駆け引きは苦手だし、そもそもデートに至っては週に一度の頻度で行っているのだ。彼から誘う暇もなく私が誘っているわけである。

 彼は拒まない。
 メッセージも会話も、デートの誘いも情事ですらも。

 それで十分じゃないか。満足するべきだ。
 そう思う。

 …でも、だけど。
 メッセージのやりとりが、会話が、彼の相槌で終わったとき。
 デートが終わったあとで、振り返ることもなく去っていく彼を見ているとき。
 彼からの「好き」を聞いたことがないと意識してしまったとき。

 そういうときのどうしようもない虚しさが私を愚かしく強欲にさせて、私はそんな私が大嫌いだった。
 これ以上を求めて、執着して、束縛して…そんなことは彼に嫌われるだけだと分かっているのに、いつかこの感情が抑えきれなくなる気がしてならないのだ。

 だから、決めた。

「別れよう」

 何度か行った彼の家。
 できるだけ何でもないように、しかし彼の顔を見ることもできないままに呟いた言葉は、震えてしまっていなかっただろうか。

 そう不安になるけれど、彼は何も言わない。緊張状態のせいで、僅かな沈黙を長く感じてしまっているだけなのだろうか。
 体温が下がっていくのを感じながらもぐるぐると頭を回していると、彼がようやく口を開いた。

「…理由は」

 …意外だった。
 てっきり「ああ」とか「わかった」とか言われて、そのままお別れかと思ったのに。

 予想していなかった問いに口をもごつかせるが、真実など伝えられるはずもない。彼に向けている感情が醜く変容し始めていることを知られるなんて絶対に嫌だ。
 けれど彼のせいにできるわけなどは当然なく、私は咄嗟に「その、えっと…他に好きな人ができて…ご、ごめんなさい」と頭を下げる。

 言いづらそうな態度になったのは嘘をついた後ろめたさからだし、頭を下げたのは表情を見られたくなかったから。
 でも結果的に嘘に合った行動になっているな、なんて頭の隅の冷静な部分で考えていると、不意に彼が小さく笑った。
 あの彼が。クロガネくんが、笑ったのだ。

「なるほど、俺は遊びだったわけか」

 思わず顔を上げた直後、私は押し倒されてベッドに寝転んでいて。
 …なんでベッドに。いやそりゃベッドに並んで腰掛けて話してたんだから押し倒されたらベッドに寝転ぶ形になるだろうけどそうじゃなくて、なんで、クロガネくんが。

 頭の中をクエスチョンマークに支配されている内に両手はまとめて頭上でネクタイに固く縛られて、クロガネくんに馬乗りになられている私は身動きがとれなくなってしまった。

「え、あの、えっと…っん…!?」

 未だ混乱しっぱなしの私に一つ触れるだけのキスをした彼は、そのまま私の耳元で告げる。

「──今更、逃してやると思うなよ」

 

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