お風呂で初めて肉体関係を交わらせる本屋で出会ったオトナな二人

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お風呂で初めて肉体関係を交わらせる本屋で出会ったオトナな二人 (ページ 1)

 誰かと一緒にお風呂に入るなんて、いつぶりだろう。
 加奈子は二人分でお湯が多くなった湯船と、背中に感じる人肌に、珍しく過去を振り返っていた。

「熱くないですか?」

 「のぼせる前に教えてくださいね」と、心地よいテノールが浴室に反響した。

「俊さんこそ、あがりたくなったら遠慮なく言ってくださいね」
「いらない心配ですよ」

 穏やかな声と、大きな手ですくったお湯が滴る音が混ざり合う。

「さっきから上の空みたいですけど、どうかしましたか。聞ける悩みなら聞きますよ」

 すくったお湯は加奈子の肩の上にかけられた。

「悩みじゃないわ。こうやって誰かと一緒にお風呂に入るの、久しぶりだなあって」

 加奈子は再び湯の中に潜った大きな手に、自分の手を重ねた。
 最後に誰かとお風呂に入ったのは、あの子が小学生の時だったかな。
 今じゃ色気づいて、私よりも長いバスタイムで身を綺麗にしている。
 加奈子は時の流れの早さと、一人であの子を育てられたことに改めて安堵の吐息をもらした。

「僕も久しぶりですよ。それに、きっと僕の方がその年月は長いと思う」

 ちゃぷ、とお湯が揺れる音がして、後頭部にキスをされたような感覚がした。

 二人の出会いは本屋だった。同じ本を同時に取ろうとして手がぶつかるなんて、物語のなかだけのシチュエーションだと思っていた。ぶつかりあった二人はギクシャクしながらそう話題にした。ちょうど昼時だったので二人はその後も話題を続けるため外食を共にし、何日かその関係は続いた。加奈子はバツイチだということを打ち明けたが、俊はそんなこと何ともないと微笑をこぼして言い、交際を続けた。ホテルに入ったのは、今日が初めてだった。
 加奈子は彼との思い出、彼の言動、そして今の状況を噛みしめ、こんなに幸せだったことは今までにないと、改めて実感した。

 加奈子は自身の頭や頬や体を撫でたことのある大きな手に、指を絡ませた。

「キス、口にしてくれませんか」

 小さな声で言ったはずなのに、よく響く浴室はその言葉をしっかりと背後の男に届けた。

「ええ、もちろん」

 ちゃぷ、ちゃぷ、と体を動かした波で余計に二人は体がピタリと密着した。
 俊は加奈子の顔を両手でそっと包み、湯気で潤んだ薄桃色の唇を食んだ。

「ん……ふう……」

 どちらとも言えない吐息混じりの漏れだした声。湯船のお湯がぶつかる音も相まって、ちゅ、ちゃぷ、くちゅ、ぴちゃん……と妖艶に響いた。額や首筋に滴る汗ですら二人は快感を煽られ、口づけは次第に舌や歯列、上顎を刺激して欲を高めていた。

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