私には大好きなバーテンダーがいる。でも、ある日店を畳むと告げられて…
キャラクター設定
登場人物をお好きな名前に変更できます。
milkyに掲載の小説は当サイトが契約した作家によるオリジナル作品であり、著作権は当サイトにて保持しています。無断転載、二次利用は固く禁じます。不正な利用が確認された場合、法的措置を取らせていただきます。
私には大好きなバーテンダーがいる。でも、ある日店を畳むと告げられて… (ページ 1)
「あの上司、マジで許さない!自分のミスくらい自分で何とかしろ!私に全部押しつけやがって~!」
「有紀子さん、大丈夫?また上司にいじめられたの?」
「ううっ、聞いてくださいよ翼さ~ん!」
広告代理店に勤めて早三年。
激務と言われるこの業界で、私はどうにかこうにか仕事をしている。
そんな私の心のオアシスは、お洒落なこのバー。
金曜日の仕事終わりは、毎週ここに来て、バーテンダーの翼さんに話を聞いてもらっている。
お酒は美味しいしお店の雰囲気もいいし、翼さんは優しくて穏やかで、しかもすっごいイケメン。
「ほんとこのバーに巡りあえてよかったです。ここのおかげで毎日仕事頑張れます」
「嬉しいこと言ってくれるね。でも…」
翼さんは表情を曇らせて、気まずそうに言い淀んでいる。
こんな翼さんは珍しくて、すごく不安になった。
「あの、何かあったんですか…?」
「実は、このバー、畳むことになったんだ」
「え?」
目の前が真っ暗になった。
何でも、一人暮らしの母親が倒れてしまって、その介護のために、やむを得ず店を閉めることにしたらしい。
「ごめんね、期待に応えられなくて…」
「いえ!家族は大切ですから!でも…そっか、じゃあ翼さん、地元に帰るんですね…」
「うん。介護しながら、地元で仕事見つけないとな。俺、会社勤めしたことないから怖いよ。有紀子さんから聞く話、いっつも怖いし」
「うちみたいなブラックは、多分そんなにないと思います!多分…」
翼さんが、どこか遠くに行ってしまう。
この場所もなくなってしまう。
あまりにも辛くて、それからしばらくは、仕事中もぼんやりするようになった。
いよいよ店を閉めるという最後の日、急な仕事が入って、私はなかなか駆けつけられなかった。
ようやく駆けつけた時には、翼さんがお店のシャッターを閉めたところで…。
息を切らして現れた私を見て、翼さんは驚いていた。
「来てくれないのかと思ってたよ」
「そんなことあるわけないじゃないですか!大好きな翼さんに会える、最後の機会だから…」
「有紀子さん…」
「翼さんのおかげで、ずっと頑張れました!私、翼さんのことが大好きです。誰よりも大好きなんです!」
真っ赤になって泣きながら、私は彼に思いの丈を伝えた。
これが最後だって思うと、正直な気持ちが溢れて止まらない。
すると、彼は私を優しく抱き締めてくれた。
「ありがとう。俺も、有紀子さんのことが好きだよ」
翼さんはシャッターを開け、誰もいないお店の中に私を招き入れた。
コメント (0)